化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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博士課程の学生・大学院生式のメンタルヘルス・うつ病対策

博士課程の学生はうつ病のリスクが高い

博士課程の学生が、うつ病などの精神障害などを患うリスクが他の職業の方より高いということは、世界各国の調査結果が論文などでも報告されています。

最近は多少は世間の見る目や理解も変わっており、博士課程の間にうつ病になったことをブログやSNSなどでカミングアウトする方も増えてきましたが、日本全体の博士課程の学生を対象とした大規模な調査結果は調べてみてもほとんどなく、現在の実態は不明です。これに関しては、社会の博士課程の学生のメンタルヘルスへの問題意識が低いのか、対象となる学生の数が少なく調査して対策するほどではないのか、もしくは"臭いものに蓋をする"や"寝た子を起こすな"といった意識なのかはわかりません。

もちろん、日本の博士課程と世界の各国の博士課程では環境などの違いもあります。しかし少なくとも、世界中の学生と同様に日本の博士課程の学生もうつ病のリスクが高いことや、自分自身でメンタルヘルスのケアをする必要があるのが、現実だと思います。もしかすると、身近な大学院生、特に博士課程でうつ病などになったという人を知っているケースもあるのではないでしょうか?

また、博士課程や研究は、体力勝負の場面もあると思いますが、博士課程の学生は頭脳労働ということは間違いないと思います。そしてうつ病などの精神障害は、メンタルの病気などともいいますが、ほぼ間違いなく脳に関わる病気です。

極端な話として、足を骨折した場合とうつ病になった場合では、どちらも研究に支障をきたすと思いますが、影響が深刻な方はうつ病の方でしょう。もしかすると、高校や大学などで周りで、陸上に力を入れていた学生が膝を壊して陸上を諦めるとか、野球に力を入れていた学生がひじを壊して野球を諦めたといった話を聞いたことがある人もいるかもしれません。これと同じことが、博士課程や研究職とうつ病でもいえると思います。だからこそ、研究に取り組む人はうつ病やメンタルヘルスはケアをすることが、非常に重要になると思います。

注意事項

筆者は医者や、医療職を目指して勉強しているわけではなく、メンタルヘルスの専門家でもありません。その点については理解して、読んでいただければと思います。

また、メンタルヘルスについて不安や問題を抱えている人は、メンタルクリニックなどの専門機関や医者などの専門家への相談を行ってください。一般論として、早期発見、早期治療は非常に重要です。

博士課程式のうつ病対策

世間一般でいわれているメンタルヘルスのケアについては、記事の後半で簡単に紹介します。この記事では、大学 (大学院) の博士課程の学生に焦点を合わせてうつ病の予防や対策になると考えている方法を紹介します。

1. データでセルフマネジメント・判断をする

様々な研究分野がありますが、多くの研究では実験や調査などを行い、その結果のデータを分析し、解釈や仮説などの考察を考えることと思います。そのため博士課程の学生はこういった能力は世間一般の方よりも高いことと思います。このデータの分析能力を、自分のマネジメントにおいても、しっかり活用することをオススメします。

1-1. 主観的なセルフチェックの定期的な実施

主観的なチェックとして、"ストレスチェック"や"うつ病の簡易診断"などがあります。だいたい5分から10分あれば実施できるものがほとんどです。
また、いくつかのチェックシートは、インターネット上で実施できたり、質問事項を控えておいてexcelなどで回答の合計点数などを出して判断するのは、簡単に行うことができると思います。

こういったテストを定期的に実施しておいて、その結果を保存しておきましょう。インターネット上で診断できるものであれば、その結果のスクリーンショットを保存、もしくはpowerpointなどに貼り付けておくだけで記録できます。

定期的に実施する理由ですが、うつ病のセルフチェックなどは、だいたい直近2週間から1ヶ月程度を判断材料にします。そのため、1年に1回などでは、充分にケアができません。健康診断などで似たようなテストがある場合もありますが、これは1年に1回になるのが、一般的ではないでしょうか。
そこで、例えば、毎週の月曜日の朝に研究室に行った時に5分でセルフチェックを回答するといったように習慣として取り入れておくといいと思います。もちろん研究室じゃなくても、日曜日の夜に家でパソコンやスマホでやってもいいと思います。

また、多くのテストは点数などで評価が出ます。この点数の結果を保存しておくと、推移も確認できます。例えば9点で軽度のうつ状態という診断結果が出たとしても、その結果が3ヶ月間で悪化傾向があるのか、自分自身の性格などもあってうつ状態という診断結果が出たが、3ヶ月間で推移に変化がないのかでは、結果の捉え方も変わってくるはずです。変化に気づくためにも、定期的なチェックをオススメします。

もちろん、正確な分析は医者には劣るとは思いますが、このデータの推移を自分でも分析して、メンタルヘルスの管理やセルフチェックをしておくといいと思います。

1-2. 客観的な身体データの定期的な測定

メンタルヘルスに限った話ではないですが、規則正しい生活などは健康管理の基本です。うつ病などの精神障害はそのメカニズムや症状が完全に解明されているわけではありませんが、症状として不眠などの睡眠時間などへの影響が起こりやすいことは、様々な報告があります。他にもうつ病の症状として食欲の変化や、体重の増減などがあることもあります。

このように精神障害は、"やる気が出ない"といった主観的な症状以外に、客観的な身体数値のデータとしても測定ができるものが症状として出ることも多いです。そのため、睡眠時間や体重などの客観的な数値データを計測しておくことがオススメです。また、これも定期的に測定を行うことで、推移なども確認することが分析に非常に役立つと思います。

特にオススメはApple Watchなどのスマートウォッチを活用した毎日の睡眠時間の計測です。睡眠は体だけでなく、脳のリフレッシュなどにも重要ですが、最近はコーヒーやエナジードリンクなどでカフェインを摂取しやすい環境もあり、特に比較的若い学生は深夜の研究や徹夜なども行ってしまう人がいるのではないでしょうか。

また、睡眠時間は、記録を取っていくと、何時間睡眠を取るとベストなパフォーマンスが発揮できるかがわかるようになると思います。メンタルヘルスはもちろんですが、パフォーマンスの維持にも睡眠時間の計測は役立ちます。

人はなんとなく何時から何時まで寝たと思っていても、自分の感覚と実際のデータはズレがあることも多いものです。筆者も実際に下のように、Fitbitとアプリを用いて睡眠時間をトレースしています。筆者自身も自分の睡眠時間の体感は意外にあてにならないこと経験したことがあります。(製品については後述)

スマートウォッチのもう一つのメリットは、基本的につけているだけで、自動でトレースができる点です。多少ズボラな人や忙しい人でも記録ができます。

他にも有効なデータとして体重食事量などもあると思います。強いストレスや精神障害の症状としても、食欲の増減や体重の増減はあります。大学などの受験期に体重が大きく増減した経験のある人も多いのではないでしょうか?
ただ体重は食事などによって一日でもそれなりの変動があるうえ、体重計で測るというアクションが必要なので、少しズボラな人だと、測定を忘れるなんてこともあるのではないでしょうか?また、生活リズムが不規則な人だと、定期的に体重を測定するということが生活に組み込めない人もいるかもしれません。
食事量も写真を撮っておけばいいのですが、コンビニ買った軽食や間食などまで全てケアできない人がいるのではないでしょうか?
もちろん、生活リズムが一定で習慣に体重や食事量の測定などを組み込める人や、きっちりしている性格の人であれば、体重や食事量もいい指標になると思います。

スマートウォッチや体重計などは多少の出費になりますので、学生の中には躊躇する人もいると思います。ただ、実際にうつ病になると月に1回の診察と薬代だけでも、3割負担で各1000円として計2000円、1年継続すると2万4000円です。さらに、精神障害となった場合は、研究生活や博士号取得のスケジュールなどに多くの悪影響が出ます。それを踏まえると、健康を管理するための投資と思えば、決して高くはないと考えられないでしょうか?

ちなみに、向精神薬などは1回に処方できる上限が30日であるものが多く、医者としても定期的に病状を確認するためにも、症状が落ち着いていても1ヶ月に1回程度はメンタルクリニックなどへ通うケースが多いと思います。当然、薬代はその種類や量によって変動しますし、初診料であったり、通院の初期は病院に通う頻度が毎週になったりで必要なお金が増えたり、逆に、自立支援医療制度を活用して1割負担となったり、学生であれば大学生協の共済保険などで補償が出たりと、金額については一概に言えません。

2. 時間をマネジメントして、研究以外の時間を確保する

人によって様々なストレス解消法をもっていると思います。カラオケ、スポーツ、散歩、ゲーム、読書、楽器演奏、旅行、食事、実験などいろいろあります。ただ、どの解消方法を実践するにしても、必要になるのは時間ではないでしょうか。もう一つ付け加えるならお金だと思います。

ただアルバイトなどでお金を稼ぐにしても、結局、時間が必要になります。

博士課程の学生は研究の道のプロとなるべく修行をしている段階なので、研究に使える時間を研究に費やそうとするのは、当然のように感じてしまいます。ただスポーツ選手でもオーバートレーニングとならないように、休息も大切にしています。同様に研究者もベストパフォーマンスを発揮できるように自分自身で時間をマネジメントしていくべきだと思います。

2-1. 雑用を断る勇気をもつ

博士後期課程1年といえば、研究者としては半人前と捉える人も多いことでしょう。ただ、その一方で、学生としては経験の豊富な一人前だともいえます。特に同じ大学や同じ研究室で進学している人は、その大学での経験については新任のポスドクや助教などよりも詳しいのは当然です。そのため、講義や学生実験のTAであったり、新しく研究室に入った学生の面倒などを任せられるケースも多いと思います。

また、博士後期課程1年生と任期が3年の新任のポスドクが、3年後の学年末の3月(留学生なら9月)までどちらが残っている可能性が高いと考えますか?
他にも比較的専門性の高くない雑用を学生とポスドクのどちらに任せようと思いますか?

例えば、半年ごとや毎年必要な検査や管理などの準備であれば、3年間研究室にいる可能性が高いほうに任せたほうが効率が良さそうと考えがちではないでしょうか?
例えば、各研究室から一人が行うような行事や雑用であれば、ポスドクよりも学生に任せてしまおうと考える人もいるのではないでしょうか?

上記のような事情でどうしても、博士課程の学生が雑用が多くなるケースはあります。さらに日本の大学だと、学務や事務のやり取りが日本語であったりするため、雑用が留学生にはあまり振られず、ここの読者のような日本人の学生に多く振られてしまうといったケースもあると思います。

また、博士課程は論文や学振の添削や推薦状であったり、博士号を審査するのがPIであることも多いため、雑用を断りにくいという心理もあると思います。

ただ、ある程度は自分のことを優先して、特に自分以外でも行うことができる雑用は断ることが研究の時間、そして自由な時間を確保するためには大切になります。もちろん全ての雑用や仕事を全て断ればいいというわけではありませんが、どこまで雑用を受け入れるかの線引きを含めて経験を積んでいくことが重要と思います。

また、いきなりNOと言うことはハードルがある人もいるかもしれませんが、他にも「その仕事は〇〇さんと一緒にやってもいいですか?」のように周りにも上手に分担してもらいながら、研究室のメンバー全体で雑用に取り組んでいくような流れを上手に作っていくこともテクニックだと思います。

2-2. 時間に対する意識をもつ

博士課程のような学生は、時間に対しての意識が、アルバイトの場合や、企業の社員などより希薄になっている人も多いのではないでしょうか?

労働であれば、労働時間を管理する法令や残業代などを算出する必要があるため、タイムカードなどがあったり、ある程度は時間が管理されていたり、可視化できるようになっていたりします。

一方で、大学の研究室はコアタイムはあっても、コアタイムを超えて研究活動に取り組むことは当たり前であったりするケースも多く、また、コアタイムがない研究室もあると思います。もちろん研究室の学生なので、研究室のメンバーで少し遠くまで食事に行くといった裁量や自由があったりすることもあるため、労働時間と一概に比較はできないとは思います。

ただ、自分が何時間を研究活動、具体的には実験や、論文執筆や文献調査やゼミ、後輩指導などに使っているかは、ある程度把握しておきましょう。研究活動は、試行錯誤と失敗の連続なので、素人から見るとムダに見える作業が多くなってしまう活動なのは当然です。ただ、その中にも、本当にムダな作業や時間がないかは、チェックしておくべきです。なんでもかんでも効率化できるわけではないですが、Excelの解析シートを準備しておいたり、解析のプログラムやマクロを組んでいたり、パソコンやオンラインのソフトやツールなどを活用したりすると、それなりに研究に使っていた時間を短縮することができるケースもあります。

例えば、実験のデータやファイルを探すことに時間を使っている人であれば、きちんと整理するようにするだけで、ムダな時間を減らせます。論文などの文献の管理も専用のソフトウェアを活用すると、整理しやすくなります。論文執筆中なども定期的にバックアップを取ったり、オンラインで同期されるようにしておくと、データの損失を防げます。また、英文の文法のチェックなども優秀なソフトウェアやツールなどがあります。
いまや常識となっているものが多いですが、もしやっていないものがあれば、積極的に活用するようにしましょう。

また単純な解析作業などを、ついダラダラ夜遅くまでやってしまう人や、夜間の集中力が無い時間まで実験に取り組み、単純なミスで実験に失敗してしまうといったケースもあるかもしれません。必要な時間を見積もったり、自分のパフォーマンスを意識したり、細かい作業でも締め切りを意識して、取り組むことも大切になります。

その他の予防方法

その他にも、メンタルヘルスについて気をつけるべき一般論について挙げていきます。

  • 充分な睡眠をとる
  • 規則正しい生活をする
  • 適度な運動やスポーツを行う
  • 栄養バランスのとれた食事を意識する
  • 休養・リラックス・気分転換をする
  • アルコール(お酒)やカフェイン、ニコチン(タバコ)の取りすぎなどに注意する
  • 自分の性格や、親類などでうつ病などになった人がいないなどの自分のリスクを把握する
  • 周りの人に相談する・相談できる人をもちコミュニケーションをとる
  • 太陽の光を定期的に浴びる

これらはよく言われることですので、日頃の生活で心がければ、悪い方向に作用することはないと思います。中学、高校、大学の授業や講義などで聞いたことがある人も多いかもしれません。
毎日の生活で意識できればいいですが、全ては難しいというのが実態かもしれません。上手に活用して、健康な博士課程生活を過ごせればと思います。

参考情報

筆者は睡眠時間のトレースと管理はFitbit Inspire2とFitbitのアプリを使用しております。
ただ、iPhoneやMacユーザーなApple Watchの方が便利ではないかと思います。
スマートウォッチやトラッカー、活動量計などで検索し、機能、デザイン、値段などを考慮して、最適な製品を探すことをオススメします。また時期によって型落ちのモデルなどは値段が変動することも多いため、上手に探すことが大切になると思います。