化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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選ぶと危険!? 研究室配属の新入生が避けるべき研究テーマ5選

理系であれば、大学の3年後期や4年生から研究室に配属され、卒業研究に従事する学生が多いです。研究室に配属されると、研究テーマを決め、その研究に集中して取り組むことになりますが、この研究テーマの中には、研究室に配属されたての学生が避けたほうがいい研究テーマがありますので、その特徴をここで紹介します。
特に自分で研究テーマを決定するタイプの研究室の方は参考にしてください。

あくまで、初めて研究に取り組む学生にとって避けたほうがいいテーマですので、修士課程や博士課程の学生、もちろんポスドクなどには当てはまらないので、ご理解ください。

また、"なぜ避けるべき研究テーマがあるのか"という話は、後半に書いていますので、気になる方は、先にそちらをご覧ください。

1. 研究テーマが広すぎる

例えば、銅酸化物系超伝導体を合成し、既存の臨界温度を超える超伝導体の開発という研究テーマを例にあげます。高温超伝導体の開発が難しいという話もありますが、そことは別に、銅酸化物系超伝導体という点がネックです。少し調べるとわかりますが、銅酸化物系超伝導体は非常に多くの研究者が様々な研究を行っており、非常に多くの種類が存在することがわかります。どういった結晶構造に集中するかなどが決まっていないと、先行研究の調査も広く浅くになってしまい、充分な研究経験を積むことも難しくなります。

このように、研究テーマが広すぎると、先行研究の文献調査なども広く浅くになってしまい、深い知識が得られないだけでなく、研究について考える時間も少なくなり、研究成果もオリジナリティ(独創性)などが乏しくなってしまいます。

2. 新規性が高すぎる研究テーマ

例えば、

  • その研究室で過去の在籍者も含めて誰もやっていない研究テーマ
  • 世界でも、ほとんど誰も行っていない研究テーマ

などです。

そもそも、ほとんどの研究には、新規性があります。しかしながら、その新規性の度合いというものがあります。

研究の経験が充分な研究者にとっては、新規性が高いテーマは非常にやりがいや取り組みがいがある研究テーマだと思います。

一方で、研究室内で新しく行うテーマの場合、研究の方向性や知見などが乏しく、他の研究テーマと比べると、成果を出すことが難しくなります。他にも、テーマのメインの実験に取り組む前に、実験を行う実験系や実験装置を準備するために時間がかかり、実験結果が少なくなったり、徹夜などの長時間の過酷なスケジュールになってしまうこともあります。

また、ほとんど誰もやっていない研究テーマですと、先行研究の論文数などの情報源が少なくなります。論文には、その研究テーマの背景や、今後の展望なども書いていますが、そういった文献調査や研究のアイデアのヒントなども得難くなります。

3. 流行している研究で競争が盛んすぎるテーマ

研究にも、その時に注目されている研究分野や研究テーマが存在します。注目されている研究テーマは、NatureやScienceのようなIF(インパクトファクター)の高いジャーナルにも掲載されるなど、上手に進められると、世間的にも注目される成果を得られる可能性が高くなります。

その一方で、取り組んでいた研究テーマやアイデアと、ほとんど同じ内容の論文が、自分の研究途中に発表されるなどの競争も激しくなります。同じ研究アイデアの論文が先に出されても、卒業論文などは執筆し、卒業はできると思いますが、論文や学会発表の成果につなげることが難しくなったり、研究の大きな方向転換をする羽目になることもあります。

他にも、多くの研究者が様々なアイデアを考えていると、新規性や独創性(オリジナリティ)を出すためにも、膨大な先行研究の調査なども必要になります。

4. 試薬や消耗品が高価や希少な研究テーマ

実験の試薬にも、当然値段があります。例えば純水であれば、ほとんどの研究室で生成装置を持っているなど汎用的です。一方で、水分子の水素原子が同位体である重水素で構成されている重水になると、100 mLでも一万円を超えるなど、一気に高価になります。

研究室には、教員などが獲得して準備している予算がありますので、高価な試薬を大量に使用する実験は、実験回数などが制限されてしまう危険性があります。実験で狙い通りの成果が出せないと、あまりよくない実験結果で論文を仕上げることになるなど、大変になります。

また、希少なものにも注意が必要です。例えば今は、ウクライナ情勢なども影響し、ヘリウムガスの価格が高騰したり、納品が遅れるなどの現象が起こっています。大量のヘリウムガスを使用する実験や装置は、予算はあっても、実験ができないという事態が起こるかもしれません。

5. 実験回数が大きく制限されてしまう研究テーマ

例えば日本には、世界でもトップレベルの大型放射光施設であるSPring-8があります。このSPring-8でしか、得られないような研究成果も多数発表されていますが、特別なコネやツテのない研究者は、使用するために申請を行い、一年に数日や1~数回しか実験できない場合が多いです。当然、一度の測定で秀逸な研究成果が出ればいいのですが、そうでない場合、研究成果が乏しくなってしまいます。

他にも、大学内では、装置が共用利用になっているものも多くあります。人気のある装置は予約を取るのが難しく、自分の実験回数や測定回数が制限されてしまうといったこともあります。

こういった研究テーマは研究成果を出すために大きく苦労などをしてしまう可能性があります。

避けるべき研究テーマになってしまった時には

例えば研究室に学生が3人配属されるときに、研究テーマが10個のうちから選べるというような選択の自由度が高いケースは、そこまで多くありません。場合によっては、研究テーマの選択肢がないケースもあるでしょう。

そういった研究テーマになった場合は、早めに二の矢バックアッププランを準備しましょう。

学生実験では、Aという化合物を合成するテーマで、別のBという化合物を合成するのは、ほとんど評価に繋がらないはずです。

一方で、研究は研究途中にテーマや方向性が変わることも多いです。最初はAという化合物を1の手順(ルート)で合成する予定だったが、うまくいかなったため、2の手順で合成したという研究でも充分な成果となります。他にもAという化合物で触媒活性を上げる予定だったが、合成が困難であったため、Bという化合物で触媒を合成し、高い触媒活性を示したという内容でも、充分な研究成果になります。

また、特に卒業研究であれば、研究テーマのゴールの途中までの成果でも、新規性を示して卒業論文として仕上がるように、プランを準備するという選択肢もあります。

卒業論文として認められるだけの、成果を出し、卒業できるように、選択肢を増やしたり、ゴールポストを動かすなどの計画を準備しておくと、安心です。

しかし、二の矢やバックアッププランを自分一人で考えることがハードルが高く、難しいケースも多いはずです。そういった場合は、まずは相談できる人を早めに探して相談しましょう。研究室の違う先輩や、ポスドクなど教員でなくても、相談にのり、アドバイスなどのサポートをしてくれる人もいます。他にも、大学によっては、就学指導などの相談窓口がなどがあるケースも多いので、何もわからなければ、まずはそういったものがないかを確認してみましょう。

そもそも、なぜ避けるべき研究テーマがあるの?

新しく研究室配属された学生は、学生実験などのスキルは習得していても、研究者としてはまだまだ未熟です。そういった学生を指導するために、卒業研究が設定されています。

また、卒業までの研究期間が1年と短かったり、練習実験や就活、大学院の入試などもあると、実際に卒業論文の執筆や提出までに研究できる期間は6ヶ月程度しかないこともあります。

つまり、学生にとっては、比較的短い期間で、研究に必要な技能を習得し、ある程度の研究成果を出すことが求められます。

一方で、研究テーマを考えるということは、研究経験が豊富な教員にとってもハードルの高いことです。特に、学生が研究できる期間で、確実に成果が出る研究テーマを、毎年、場合によっては複数提案して、適切に指導を行っていくとなると、教員にとっても難しくなります。

もし、教員としての経験が浅い先生であれば、自分や教員の周りの学生を基準にしてしまい、学生に適切なレベルを見誤って研究テーマを設定してしまう可能性もあります。

さらに、教員も研究者として興味があるテーマや、指導する学生の研究内容を利用して、現在の研究の予算をもらっているプロジェクトの進捗や成果を出したり、次の研究プロジェクトのための方向性を見出したいなどの思惑が絡む場合もあります。

その結果、学生にとってはハードルの高い研究テーマが存在することがあります。

どういう研究テーマであれ、おそらく研究自体は、ある程度行うことができる環境は準備されていると思いますが、研究テーマによって、学生のスキルには大きな差がなくても、研究成果に大きな差がでることがあります。

また、研究成果が順調に出るかどうかは、自分のモチベーションやストレスなどにも影響してしまいます。

研究成果によっては、学会発表や場合によっては学術論文などの成果にも影響します。さらに、こういった成果は、学費の減免に影響したり、進学後の修士課程での就活への影響や、博士課程での学振の申請などにも影響する可能性があります。

そのため、研究テーマはなるべく適切なものを選択することが理想的になります。