分配平衡・分配係数・分配比
分配について考えるために、物質が溶媒に溶けることについて考える。
塩や極性分子は水によく溶ける。一方で、無極性の有機分子は水に溶けにくい。
反対に、ベンゼンのような無極性の有機溶媒には、塩や極性分子は溶けにくいが、無極性分子はよく溶ける。
そして、水と無極性の有機溶媒は、水と油を混ぜたときのように、お互いに混じりあわず2相を形成する。
溶質Sが溶けている水溶液に、水とは混じりあわないヘキサンを加えて、充分に振り混ぜた後に静置する。こうしたとき、溶質Sの一部は水相にとどまるが、一部はヘキサン相にも溶ける。このときの、溶ける割合は、その溶質の性質よって大きく異なる。
溶質Sが極性が低く水に溶けにくい物質である場合、ほとんどがヘキサン相に移動する。一方で塩であれば、ヘキサン相にはほとんど移動しない。
このような異なる二つの相に物質が、その性質に基づいて分布することを分配という。また、この平衡を分配平衡という。
溶質Sの水相中の濃度を、有機相中の濃度を
とすると、分配平衡は以下のように書くことができる。
このとき、は分配係数といわれる平衡定数である。
上の式は、単一の化学種の分配平衡を示している。しかしながら、実際の抽出の場合には、いくつかの化学種が平衡に関与している。例えば解離している酸と解離していない酸が共存する場合などが考えられる。このような場合には、分配比が使われる。
水相の溶質Sを含むすべての化学種の総濃度を、有機相の総濃度を
とすると、次の式のようになる。
また、実際には有機相に全溶質の何%が抽出されたかを考えることが多い。この全溶質の何%が抽出されたかを表す指標として抽出率%Eを用いることが多い。
そこで、を有機相の体積、
を水相の体積とすると以下のようになる。
また、以下のように式を変形することができる。
抽出法
このような分配平衡を利用して試料中の目的物質を一方の相に移し、共存物質を他の相に残すことによって分離と濃縮を行う方法を抽出法という。
また2相への分配は、液相と液相の液相間(液液分配)だけではなく、固相と液相間(固液分配)も存在する。
目的物質を液相に回収する場合は溶媒抽出法という。2相が両方とも液体である場合には、液液抽出法という。固相に回収する場合は、固相抽出法という。
食品や土壌などの固体から分析成分を液相に抽出するソックスレー抽出法などはよく知られている。