化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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企業の新規採用研究職における博士号保持者の割合は減少傾向が続く

2022年8月に公開された科学技術指標2022の結果から、メディアを中心に日本の科学技術力の低下が話題になっています。

学生にとっては、論文数やTop1%論文数と同じくらい、以下のデータも気になる人がいるのではないでしょうか?

引用文献より引用

企業の新規採用研究者(研究職)のうちの、博士号取得者の推移を示したデータです。単純に人数を見ても、新規採用研究者のうち博士号取得者の人数は製造業で前年比-16.3%非製造業で前年比-12.6%と一割以上減少しています。

さらに採用者のうちの博士号取得者の割合も、2019年前後を境に、2021年はほぼ全分野で減少傾向が続いていることがわかります。

例外は学術研究・専門・技術サービス業ですが、この分類は、○○研究所や○○技術センターのような研究や検査などを主な業務とする非製造業も該当します。2017年から博士号取得者の採用者が減少傾向であったのが、採用者数が2021年に2017年と同程度に回復したものの、この傾向が続くかどうかは注意が必要といえるでしょう。

報告書の中でも、博士号保持者の採用が減少している要因は不明としながらも、新型コロナウイルスの影響について示唆しています。

各企業によって、新卒採用の計画や戦略は大きく異なるでしょうから、一概に議論することは難しいかもしれませんが、それでも多くの企業で、博士号取得者の割合を減らし、逆に言えば、学士や修士号取得者の研究職の採用を増やしたことから共通の要因の存在は想定できるでしょう。

もちろん、例年通り博士号取得者を採用する計画だったが、応募者の能力や研究分野、スキルなどから不本意ながら採用を減らしたという可能性も全くないとはいえません。また、2019年前後から就活のオンライン化が大きく進み、就活の方法が大きく変化したことが影響している可能性も否定はできません。他にも、博士号取得者が研究者以外の道を積極的に希望した結果ということも考えられます。

しかしながら、おそらく現実的に想定しうるストーリとしては、新型コロナウイルスの感染拡大や海外のロックダウンなどによる短期的な業績の悪化の影響によって、採用者数は維持したい一方で、人件費を抑えるために、博士号取得者の採用を抑えたというものがあるのではないでしょうか?

修士号所得者で企業の研究者として採用されることを目指した人にとっては、2020年や2021年は追い風もあった一方で、博士号取得者は厳しい就活になったという可能性が高いと思われます。

博士号取得者の口コミや経験談といった就活情報も、2019年以前かどうかで見方を変える必要があるかもしれません。数年前の情報を鵜吞みにしていると、就活の苦戦で、想定以上の時間を費やしたり、長期化に陥る可能性もあります。

業界分析や企業分析、企業の説明会やインターンシップ参加時には、全体の採用人数だけでなく、採用者の各学位取得者の割合や推移にも注目すると、企業の特徴が見えてきそうです。

引用文献

文部科学省 科学技術・学術政策研究所、科学技術指標2022、調査資料-318、2022年8月