化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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分子の基底状態・励起状態と光の吸収

基底状態と励起状態

分子は通常、最も安定な電子配置の状態で存在する。この状態はエネルギー的には最も低い状態であり、この状態を分子の基底状態という。

基底状態にある分子が光エネルギーを吸収すると、高いエネルギー状態である励起状態となる。この基底状態から励起状態へとなることを励起という。

 分子のエネルギー

分子の光エネルギーの吸収を考える前に、分子がもっているエネルギーについて考える。

分子のもっている全エネルギーは分子の電子のエネルギー、分子の回転エネルギー、分子の振動エネルギーの総和である。

まず、分子は分子を構成する原子の原子核と電子から成り立っている。特に原子の最外殻の電子は、原子核との強い相互作用を受けながら運動をしている。この運動をしている電子はエネルギーをもっており、これが分子の電子のエネルギー(E_e)である。

分子内では、原子核は分子の重心のまわりを回る回転運動をしている。これは分子回転といわれる。この分子回転の運動のエネルギーが分子の回転エネルギー(E_r)である。

 分子内では、原子核と原子核は結合の延長線上で伸縮運動をしている。この伸縮運動のエネルギーが分子の振動エネルギー(E_v)である。

分子のもっている全エネルギーをE_Mと表すと、次の式で表される。

 E_M = E_e + E_v + E_r

分子の光の吸収

分子が光エネルギーを吸収する場合、分子の各エネルギーの準位の差に相当する光エネルギーを吸収していることになる。分子のエネルギー準位の差の大きさを電子のエネルギー、回転エネルギー、振動エネルギーのエネルギーで比較すると、電子のエネルギーの準位の差が最も大きい。

電子のエネルギー準位の差は可視光、紫外光の波長域のエネルギーに相当する。

振動エネルギーの準位の差は赤外光の波長域のエネルギーに相当する。

回転エネルギーの準位の差はマイクロ波の波長域のエネルギーに相当する。

そのため、分子が遠赤外やマイクロ波領域の小さいエネルギーを吸収した場合は、分子の電子状態や振動状態に関係なく、回転エネルギーのみが変化する。

しかし、分子が赤外領域のやや大きなエネルギーの光を吸収するときは、振動エネルギーと回転エネルギーが変化する。

さらに、分子が紫外部や可視部領域のエネルギーの大きな光を吸収するときは、電子エネルギー、振動エネルギー、回転エネルギーが変化する。この電子の運動、振動運動、回転運動の3つの運動は独立したものではないため、各運動のエネルギーは互いに干渉する。

よって分子が紫外部や可視部領域のエネルギーの大きな光を吸収した場合は、電子吸収スペクトルに振動スペクトル、回転スペクトルが重なって現れるため、多くの分子の吸収スペクトルは幅広い帯状の吸収スペクトルを示す。