ミラー指数と結晶面
結晶では、結晶面によって原子の配置が異なる。そのため、結晶面によってポテンシャルエネルギーの空間分布が異なる。よって、原子間の結合力が方向によって異なる。
そのため、例えば半導体では結晶面によって、半導体が削られるときの速さであるエッチンググレードやトラップ準位の数などが決まる。また、触媒では、結晶面が基質分子の吸着の仕方や触媒反応の速度に影響を与える。
このように結晶の性質は結晶の方位や面によって異なることがある。そのため、結晶の方位や面について議論をすることも多い。このときに、結晶の方位や面を指定するために、ミラー指数 (Miller指数)というものが用いられる。ミラー指数は、面を示す面指数と方位を示す方位指数もしくは方向指数がある。
このミラー指数は鉱物学者のW・H・ミラーが結晶面を表す記号として採用したものである。
また、ミラー指数で定義された面は、図示することもできる。
面を示すミラー指数:面指数
結晶面の位置と方向は結晶面上にあって一直線上に並んでいない3点によって定めることができるが、ミラー指数の場合は次のような順序で整数の組を決定し、面を示す。
- 結晶中の座標軸を、互いに独立な3つのベクトルで表す。
- 結晶中の面がそれぞれのベクトルの倍、倍、倍の位置で座標軸と交わるかを考える。もし座標軸と交わらない場合は、のいずれかはとなっている。
- のそれぞれを整数倍し、その整数を共に割り切る正の整数が1のみである(互いに素である)整数の組を求める。
- こうして求められる整数の組は、ある面に対してただ一つとなる。この整数の組をミラー指数もしくは面指数という。
また、面を示すミラー指数は3つの数字を丸かっこで囲んで表し、数字の間には","などは入れずに表記する。
ミラー指数の整数が負の数である場合は、その指数の上にバー (ー) をつけて (ゼロ イチ バー ゼロと読む) のように表記することが一般的である。
また、ベクトルは基本並進ベクトルである必要はない。
結晶の構造の対称性から同等な結晶面全体を表す場合のミラー指数はのように、数字を波括弧で囲んで表す。
4つの整数の組のミラー指数(三方晶・六方晶)
三方晶や六方晶は、ある軸を中心として120° 回転させると同一の結晶構造となる。こういった結晶では、慣用的に4つの整数の組のミラー指数が使われる。これは次のような順序で求められる。
- ベクトルを回転軸に平行な座標軸とする。回転軸と直交し、ぞれぞれが角度120° をなすような座標軸をとする。
- で表される座標軸と結晶中の面がどの位置で交わるかを考える。そして、結晶中の面がそれぞれのベクトルの倍、倍、倍、倍の位置で交わると考える。
- のそれぞれを整数倍し、その整数を共に割り切る正の整数が1のみである(互いに素である)整数の組を求める。
- こうして求められる4つの整数の組は、ある面に対してただ一つとなる。この整数の組をミラー指数とする。
ただし、面を指定するためには3つの整数の組で充分であるため、4つの整数の組は必ずしも必要ではない。また、この4つの整数の組のうち、にはの関係が成り立つため、の3つの整数のうち2つが求まると、あと1つを求めることができる。
方位を示すミラー指数:方位指数
結晶の方位もミラー指数によって示すことができる。結晶の方位の指数は次のような順序で定めることができる。
- 結晶中の座標軸を、互いに独立な3つのベクトルで表す。
- ある方位を表すベクトルがと整数の組を用いて次のように表されるとする。
- このとき、が方位を示すミラー指数である。方位を示すミラー指数の場合は3つの数字を角括弧で囲んで表し、面を示すミラー指数と同様に数字の間には","などは入れずに表記する。
また、結晶の構造の対称性等から等価な方位を表す場合のミラー指数はのように、数字を山括弧で囲んで表す。
ミラー指数と括弧
ミラー指数はその括弧によって意味が異なる。これをまとめると、次のようになる。
:特定の面を表す
:等価な面を表す
:特定の方位 (方向) を表す
:等価な方位 (方向) を表す