化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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放射光・シンクロトロン放射光と挿入光源(ウィグラー・アンジュレーター)

放射光とは

放射光とは、光速近くまで加速された非常に高いエネルギーをもった電子の軌道を電磁石によって曲げた際に、軌道の接線方向に放射される電磁波のことである。この電磁波は電子シンクロトロンで初めて観測されたため、シンクロトロン放射光ともよばれる。

放射光は、赤外線から硬X線までの広いエネルギー分布をもち、指向性が高く、偏光特性がよいなどの特徴がある。

放射光を長時間に安定に取り出すためには、電子または陽電子を円形の軌道内で運動させる必要がある。そのために磁石を軌道に沿って置く必要がある。このような電子を閉じ込める円形の軌道を蓄積リングという。こうして放射光を安定に供給する施設を放射光施設という。

挿入光源とウィグラー・アンジュレーター

電磁石を使用した光より、質の高い光を得るために挿入光源が使われる。挿入光源とは、蓄積リングの偏向電磁石の間の直線部に磁石列を挿入し、電子軌道をうねらせて、大強度の放射光を発生させる光源である。挿入光源は、磁場の強さや磁場の間隔、電子がつくる波の波長などによって、いろいろな効果がもたらされる。

挿入光源は大別して、ウィグラーとアンジュレーターという二種類がある。

ウィグラーはリングの短い直線部に入れることで放射光のエネルギーを短波長側(高エネルギー側)へ変化させると同時に強度を増加させる。ウィグラーはうねりの振幅が大きく、強い白色放射光が得られる。

アンジュレーターは磁極の間隔を狭くしてたくさん並べることで発生する放射光の干渉効果によって、一定の波長の光だけが強くなる。よって、他の成分は打ち消し合うこととなり、指向性が強く、単色光に近い準単色の高輝度光が得られる。

放射光施設と世代

放射光施設は、電子ビームの加速エネルギーや施設の用途などから第一世代、第二世代、第三世代という分類がされています。

高エネルギー物理実験用のリングを利用した1960~1970年代の放射光施設を第一世代、1980年代の主に偏向磁石からの放射光を利用し、電子ビームの加速エネルギーが2~3 GeVの放射光専用施設を第二世代、アンジュレーターなどの挿入光源に主眼を置き、電子ビームの加速エネルギーが6 ~ 8 GeVである施設を第三世代という。

さらに次世代の施設として次世代光源や、回折限界光源といわれるさらに輝度が高い光源を使用した施設の設置や既存の施設の改修が検討されている。