化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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中性子回折・中性子回折とX線回折の違いの解説

中性子回折

結晶構造を決定するような結晶学的な研究において中性子回折を利用する場合がある。

ド・ブロイの関係は、ビーム状に運動する粒子が波の性質をもつことを示しており、次の式で表される。

 \lambda = \frac{h}{p}

ここで、 \lambdaは物質波の波長、pは粒子の運動量であり、質量×速度 (p = mv) であり、hはプランク定数である。

中性子は核分裂によって生成した場合、高速で運動している。そのため、ド・ブロイの関係よりその物質波は短波長となる。原子炉で発生した中性子は、約100 pmの波長になるように重水を利用して減速して、回折実験に適するようにして利用される。ただし発生した中性子の波長は完全に一定ではなく、広がりをもっているため、単結晶分光器からの反射を利用して単色化が行われる。

強度の強い中性子を得るためには、強力な原子炉が必要となる。そのため単色光の強度が小さい場合は、十分な強度のデータを得るためには、比較的大きな単結晶と長時間の測定が必要であることが多い。

X線回折と中性子回折の違い

X線回折と中性子回折の違いは、散乱過程である。X線は原子核の周りの電子によって散乱されるが、中性子は原子核によって散乱される。

また、X線の散乱因子は原子中の電子の数に依存して大きくなるため、重原子による散乱は軽原子による散乱よりも強くなる。さらに散乱因子は原子の大きさに起因する打ち消し合い効果によって \frac{ \sin \theta }{\lambda}が大きくなるほど小さくなる。

 一方で、中性子の散乱因子は予測できず実験的に決められる。また、原子の違いだけでなく、同位体によっても変化する。他に中性子の散乱因子の特徴として、中性子の散乱因子の大きさはほぼ同じであること、原子核が小さいため \frac{ \sin \theta }{\lambda}の値に依存して散乱因子が小さくならないなどがある。

すべての元素に対して中性子散乱因子の大きさが同程度であるため、軽元素と重元素は同程度の散乱を起こす。これにより、結晶構造中の、元素の位置が決定できる。特にX線では位置決定が困難な水素も、中性子散乱によって位置決定を行うことができる。

また、中性子は結晶に吸収されない。よって、X線の吸収が強い重い元素を含む試料にも利用される。

さらに、周期表の隣り合った元素は非常に近いX線散乱因子をもつため、X線を利用した測定では区別することは難しいが、中性子を利用した構造決定では、周期表の隣り合った元素を区別することが可能である。

しかしながら、各原子の中性子散乱因子は似ているため、初期位相モデルを重元素原子だけで決めることが困難である。そのため、構造の解析には直接法が用いられる。