原子散乱因子
原子にX線を照射すると、X線の散乱が生じる。特にX線の波長 (エネルギー) が散乱によって変化しない散乱は弾性散乱といわれる。そして、この散乱されたX線の強度は原子散乱因子に比例する。
まず原子に照射するX線の波数ベクトルをとする。波数ベクトルとはX線の進行方向を向き、大きさが波長の逆数のベクトルである。
そして弾性散乱によって、散乱するX線の波数ベクトルをとする。
弾性散乱はX線の波長は変化しないため、X線の波長をとすると、波数ベクトルの大きさは次の関係が成り立つ。
次に、 原子の中心 (原子核) Oからだけ離れた位置Rに位置する電子によってX線が散乱されるとする。
このとき、原子の中心Oで散乱されるX線と比べて、位置Rで散乱されるX線は、行路差が生じる。Rを通る照射されたX線から垂直に線をひいたときのOとの交点をP、Oで散乱されたX線から垂直に線をひいたときのRとの交点をQとする。
このとき、原子の中心Oで散乱されたX線と位置Rで散乱されたX線の行路差はとなる。ここでORPのなす角を、ROQのなす角をとする。
このときOQ、PRの長さの間には次の関係が成り立つ。
よって行路差OQ-PRは次のように表される。
また、原子の中心Oで散乱されたX線と位置Rで散乱されたX線の位相差は、行路差を波長で割り倍することで得られるため、位相差はとなる。
ここでベクトルの内積について次の関係が成り立つ。
そのため位相差は次のようになる。
ここで散乱ベクトルは入射するX線の波数ベクトルを、散乱するX線の波数ベクトルをに対して、次のように定義する。
散乱ベクトルを用いると、位相差はとなる。
原子の電子分布を球対称と考え、静止状態の原子中の位置における電子密度をとすると、電子密度をフーリエ変換することによって原子散乱因子が次のように得られる。