化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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光によって有機・無機ハイブリッドペロブスカイトの構造が変化することを発見

Light-induced lattice expansion leads to high-efficiency perovskite solar cells

Hsinhan Tsai, Reza Asadpour, Jean-Christophe Blancon, Constantinos C. Stoumpos, Olivier Durand, Joseph W. Strzalka, Bo Chen, Rafael Verduzco, Pulickel M. Ajayan, Sergei Tretiak, Jacky Even, Muhammad Ashraf Alam, Mercouri G. Kanatzidis, Wanyi Nie, Aditya D. Mohite

Science 06 Apr 2018:Vol. 360, Issue 6384, pp. 67-70
DOI: 10.1126/science.aap8671

 

地球規模でのエネルギー問題が取り沙汰される現在では、太陽光発電は将来的に期待されている技術の一つではないでしょうか。

ペロブスカイト太陽電池は光と電気の変換効率が20%を超えたという報告もあり、世界中で研究が行われています。このようなペロブスカイト太陽電池の実用化への大きな課題の一つが安定性であるといわれています。

今回の報告された物質は\rm{FA_{0.7}MA_{0.25}Cs_{0.05}PbI_{3}}ペロブスカイトです。FAはホルムアミジンの略、MAはメチルアンモニウムの略で、よう化ホルムアミジン、よう化メチルアンモニウムは共にペロブスカイト太陽電池の材料として、報告されている物質のうちの一つです。今回の材料はさらにセシウムを加えています。このセシウムは構造を安定化させることに寄与しているとのことです。

この論文で注目すべきポイントは次の部分ではないでしょうか。

We propose a possible microscopic origin for the lattice expansion as follows: The as-prepared thin film is strained because of the distorted nature of the lattice, which balances cations of different sizes. Upon illumination, it undergoes volumetric expansion in all directions. This process relaxes the local strain, reducing the mosaicity of the crystallites and sharpening the Bragg peaks.

引用元:Science 06 Apr 2018:Vol. 360, Issue 6384, pp. 67-70

 つまり、元々はFAとMAという別の分子からペロブスカイト構造を作っているために、格子が歪んでいる。しかし、光の照射後は、格子が拡張し、その歪みは緩和される。これを他の要因の影響の可能性を検証して排除し、例えば熱によって格子が拡張しているわけではないということを示し、光の影響であることを述べているというわけです。

そして、この構造の変化は、ペロブスカイトの接触界面のエネルギー障壁を低下させて、電力変更率の18.5%から20.5%への向上に寄与したようです。さらにこのペロブスカイト太陽電池ではこの性能を1500時間維持させることに成功したとのことです。

性能を向上させ、さらに課題である耐久時間が長いということは素晴らしい発見ですが、その要因として構造変化に着目し、その効果を提案したという成果が評価されたのかなと思います。

ペロブスカイト太陽電池がいつ普及するのかは楽しみです。

science.sciencemag.org