化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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【化学ニュース】水へ塩素と紫外線の処理で有害な物質の生成が促進される可能性

有害性が危険視されているハロベンゾキノン類

ハロベンゾキノン類(HBQs)は水の消毒の副生成物として、飲料水やプールから検出されることが最近報告されている。さらに、ハロベンゾキノンは毒性が高く、ハロベンゾキノン類は、現在規制がかかっているトリハロメタン(THM)などの前駆体でもある。このトリハロメタンは公衆衛生や環境に高いリスクをもたらすことで知られている。

引用:https://phys.org/news/2022-07-exploring-adding-uv-treatment-chlorination.html?utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter

 

塩素処理の工程に紫外線照射を組み合わせて行った場合、塩素もしくは紫外線のどちらか一方での処理とは、異なる副生成物が生成する可能性があり、いくつかの未解明な部分がある。

具体的には、紫外線と塩素の組み合わせによる消毒では、塩素のみの消毒と比較してハロベンゾキノン類から副生成物への変換反応を促進するのか、それとも抑制されるのかという疑問があった。

また塩素消毒に紫外線を組み合わせた場合、有機物の前駆体の反応に紫外線が強い影響を及ぼすのかという疑問も残っていた。

塩素処理と紫外線処理の組み合わせの影響

そこで、Zhaoらの研究グループは、ハロベンゾキノンを塩素処理もしくは紫外線と塩素処理の組み合わせを実験し、生成するトリハロメタンの生成への影響について研究を行いました。

本研究では、飲料水中で最も検出されるハロベンゾキノン類の一種である2,6-ジクロロ-1,4-ベンゾキノン(2,6-DCBQ)のCHCl3の生成収率が紫外線によって10倍近く向上することが明らかにされました。

さらに実験と密度汎関数理論(DFT)計算を組み合わせて、検討を行い4種類のハロベンゾキノン類から塩素のみと紫外線&塩素処理でトリハロメタンの生成のパターンが異なることが明らかにされました。

引用:https://link.springer.com/article/10.1007/s11783-021-1510-7

 

紫外線はハロベンゾキノン類の化学構造に大きな影響を与え、加水分解速度、反応経路、中間体とその後のトリハロメタンの生成に直接影響を与えることが明らかになった。また、ハロベンゾキノンの水酸化が、トリハロメタンの生成の重要な中間経路であることも明らかとなった。紫外線によって励起された2,6-DCBQ*は求核加水分解によって、OH-DCBQ*を生成し、これが塩素による求電子攻撃を促進することで、トリハロメタンの生成が促進されていると考えられる。

この研究結果は、紫外線の照射と塩素を組み合わせた処理プロセスでは、ハロベンゾキノン類からトリハロメタンの生成が促進されることを考慮することが必要であることを示唆している。

参考文献

Zhao, H., Huang, CH., Zhong, C. et al. Enhanced formation of trihalomethane disinfection byproducts from halobenzoquinones under combined UV/chlorine conditions. Front. Environ. Sci. Eng. 16, 76 (2022). https://doi.org/10.1007/s11783-021-1510-7

https://link.springer.com/article/10.1007/s11783-021-1510-7