化学徒の備忘録

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物質収支の意味と計算手順について

物質収支とは

化学反応では、反応器に様々な物質が出入りし、多様な物理的、化学的変化が起こる。また、その組成や性状、流量なども変化する。こういった変化を定量的に取り扱い、化学反応を含む装置の一部もしくは全て、およびプラント、工場全体に出入りする物質の流れを考えるものが物質収支 (Material balance) である。

また、マテリアルバランス (マテバラ) といったときは、反応に必要な資源や反応物の量を考える物質収支と、反応に必要なエネルギーの出入りを定量的に考えるエネルギー収支を含んで意味している場合もある。

物質収支の考え方

物質収支を考えるときは、プロセス全体、装置、装置内の一部の空間などのどういった部分を考えるかが重要である。こういった部分は閉じた空間とみなし、一般的に系という。

次に系に出入りする物質を考えるときは、特定の時間間隔を指定して考える。この時間は1年、1時間、1秒など計算の状況による。

物質収支を考える際の原則は、ある特定の系の中に入ってくる物質の量は、その系から出ていく物質の量とその系内に蓄積される物質の量の合計に等しいと考える。また、その過程において損失がある場合は、その損失は流出量の項に付け加える形で計算を行う。よって物質収支は原則的には次の式によって考えられる。

流入量 = 流出量 + 蓄積量 + 損失量

物質収支を考える際は、着目する物質によって式の作り方が変わる。着目する物質としては、個々の物質、存在する物質全体、物質を構成する元素がある。

個々の物質の物質収支

ある特定の物質Aに着目すると,ある特定の時間間隔において次の関係が成立する。

Aの流入量 + 反応によるAの正味の生成量 = Aの流出量 + Aの蓄積量

反応によるAの正味の生成量 = 反応によるAの生成量 - 反応によるAの消費量であるため、もし、反応によってAが消費された場合は、Aの正味の生成量が負の値となることもある。

物資の出入りがない回分操作では、Aの流入量とAの流出量は0となるため、装置内の状態は時間とともに変化することとなる。

また、時間にかかわらず定常状態で進行する連続操作の場合は、Aの蓄積量は0とおくこともできる。

また、ある特定の物質の収支を考えているため、質量 (kg, g) でも物質量 (mol) でも成立する。

存在する全物質の物質収支

反応が起こっても、物質全体の質量は変化しない。そのため存在する物質全体の質量では、物質収支について次の関係が成立する。

全物質の流入質量 = 全物質の流出質量 + 全物質の蓄積質量

構成元素の物質収支

化学反応が起こっても、一般的には原子が増えたり消滅したりすることはない。ただし核反応など稀有な例外は存在する。

そのため、ある特定の元素Eに着目すると、物質収支について次の関係が成立する。

元素Eの流入量 = 元素Eの流出量 + 元素Eの蓄積量

物質量の増減は化学量論式によって簡単に表現できるため、収支計算は物質量 (mol) を基準とする場合が多い。

物質収支の計算手順

  1. プロセスの略図を書き、既知のデータや化学反応の化学反応式などを記入する。
  2. 計算する際の基準を選ぶ。基準が指定されている場合もあるが、別の基準で計算を行い、換算した方が簡単な場合もある。
  3. 各成分に対して物質収支式をたて、計算を行う。

未知数の数が多くなると計算が複雑になる場合が多い。そういった場合は、まず系内でその量が変化しない物質に着目すると良い。こういった系内でその量が変化しない物質を対応物質や手がかり物質ということもある。

反応を含まない物理的操作では、反応により正味の生成量は0である。また、定常状態では、蓄積量も0とすることができる。こういった場合は、基準を定めて未知数を選択し物質収支を考えると、連立方程式が得られるため、それを解くことで計算ができる。また、対応物質が存在する場合は、算術的に計算することもできる。