化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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イオン強度とデバイ-ヒュッケルの極限法則(イオン強度の法則)

イオン強度とは

イオン強度 (ionic strength) とは、水溶液の中に溶けている1種類のイオンまたは数種類のイオンの合計の示す働き (相互作用) の強さの尺度のことである。

イオン強度Iは、イオンiの濃度をC_i、個々のイオンiの電荷数をZ_iとすると、次のように表される。

 \displaystyle I = \frac{1}{2} \sum_i C_i Z_i^2

イオン強度は希薄な電解質溶液の熱力学的性質を決める量の一つとなる。

水溶液中に1種類以上の塩が存在する場合、イオン強度の計算には、すべての異なるイオンの総濃度と総電荷が用いられる。また、完全に電離する強酸などは、塩と同様に扱われる。部分的に解離する酸などは、イオン強度を計算する前に、酸解離定数から解離した化学種の濃度を見積もる必要がある。一方で、ほとんど解離しない非常に弱い酸はイオン強度には寄与しない。

デバイ-ヒュッケルの極限法則とは

溶液中に溶けた、電解質のイオンを考える。

まず仮定として、強電解質は溶液中で完全に電離しているものとする。また、溶媒は連続体とみなし、電離によって生じたイオンは溶媒中に浮いている点電荷であり、互いに電気的相互作用をしながら、熱運動をしていると仮定する。

正と負に帯電しているイオンは、互いに電気的相互作用を受け、引き合う。また、正と正、負と負の同符号の電荷をもつイオンは反発により遠ざけられる。そのため、陰イオンは陽イオンの近くに存在する確率が高くなり、陽イオンは陰イオンの近くに存在する確率が高くなると考えられる。

一方で、イオンは熱運動によって均一になろうとする傾向をもつ。

平衡状態では、イオンのクーロン力による効果と熱運動による効果が釣り合っていると考えられる。そのため、あるイオンiの価数をZ_i、電気素量をeとすると、Z_ieの電荷をもつ中心イオンiの周りには、-Z_ieの電荷が球対称的に分布する。

この、ある空間に多数のイオンが存在するときに、あるイオンに着目すると、その周囲に反対符号の電荷をもつイオンが分布したイオンの集団をイオン雰囲気という。

つまり、イオンの挙動の自由さはイオンとの電気的相互作用によって制限される。

この度合いを表す活量係数fとイオン強度Iの間に、次に示すデバイ-ヒュッケルの式によって表される定量的な関係が存在することが導かれた。

 \log f_± = -A | Z_+ Z_-  | \sqrt{I}

Z_+Z_-は陽イオンと陰イオンの電荷の数、f_±は平均活量係数、Aは溶媒の性質によって決められる定数であり、25 ℃の水で0.509である。

この式より、イオン強度が一定であれば、イオンの種類によらず、注目する電解質の平均活動度係数は一定になることが示されている。

これをデバイ‐ヒュッケルの極限法則もしくはデバイ-ヒュッケルの極限則、イオン強度の法則という。

また、このデバイ-ヒュッケルの式は溶液が非常に希薄な溶液である場合は、実験結果とよく一致する。また、このデバイ-ヒュッケルの式を用いて活量係数を求めることができる。