共存イオン効果とは
溶液中に共存するイオンが電解質の解離や、溶解度へ影響を与える効果のことである。
一般的に共存する塩(ただし平衡に関与する共通するイオンは含まない)は、弱電解質の解離や沈殿の溶解度を増加させる。
陽イオンは反対符号である陰イオンを引き付け、陰イオンは反対符号である陽イオンを引き付ける。そのため、陽イオンに注目すると、共存する陰イオンに囲まれる。この現象はイオン雰囲気が形成されると表現される。その結果、平衡に関与するイオン間の引力は、溶解している電解質によって遮蔽されるため、それらの有効濃度を減少させ、平衡を移動させる。共存塩、もしくは平衡に関与するイオンのどちらかの電荷が増加すると、共存塩の効果は大きくなる。
例えば、難溶性の塩の溶解度は、共通するイオンがない塩を添加すると、塩の濃度が小さい場合には溶解度積には、ほとんど影響しない。しかし、塩の濃度が大きくなると、反対符号の共存するイオンとの静電相互作用などによる引力などによって、活量が減少し、溶解度が大きくなる。
例えば、塩化ナトリウムはNa+とCl-がイオン雰囲気を形成し、その近傍に対イオンが多く配置されるようになる。
一方でCaSO4のような難溶性の塩に対して、KNO3のような不活性な塩を添加すると、K+とNO3-の遮蔽効果によって、イオン対間の親和力が減少することで、有効電荷が減少し、結果として、難溶性の塩の溶解度が増加する。
特に弱酸や弱塩基のような弱電解質溶液で、弱電解質の解離などへの影響が顕著に見られる。他に、異種イオン効果といわれることもある。
この平衡に与える効果は、ルシャトリエの原理では予測することができないため、注意が必要である。そのため、電解質が存在するイオン場合は、イオンの有効濃度が重要となり、イオンの有効濃度はイオンの活量といわれる。共存イオン効果を考える場合には活量で議論を行う。
共通するイオンの影響である共通イオン効果は難溶性の塩の溶解度が減少するため、沈殿などに活用されるが、共通イオン効果と共存イオン効果は異なることに注意が必要である。
共存イオン効果と活量
共存イオン効果を考えるためには、活量を考える必要がある。
溶液中に共存塩が存在すると、弱電解質の解離が起こり、生成されるイオンの遮蔽(活量の減少)によって、その解離が促進される。この平衡に対する影響の度合いは、平衡にある化学種の活量を考えることで、定量的に予測することができる。
電解質の存在下のイオンの有効濃度をイオンの活量という。平衡定数に対して、塩の効果を定量的に表すために、イオンの活量が使われる。また、イオンの活量を測定するためには、電位差測定を用いる。一方で電位差測定は濃度は測定をしない。
イオンの活量は、以下のように定義することができる。
この時の、はイオンiの濃度、は活量係数と言われる。濃度は通常モル濃度で表されるため、活量は濃度と同じ単位が用いられる。活量係数は溶液中のイオンの総数とそれらの電荷によって変化する。また、活量係数はイオン間の引力の効果を補正するものでもある。
10-4 M以下の希薄溶液では、単純な電解質の活量係数は1に近いため、活量は濃度とほぼ等しくなる。
一方で、余分な塩を添加し、電解質の濃度が増加すると、活量係数は減少する。つまり、活量は濃度よりも小さくなる。しかしながら、さらに非常に濃度を高くしていくと、活量が1を超えることがある。これは特に陽イオンで見られ、イオンが水溶液中で水和しているため、溶媒和した水が溶媒としての機能を果たさなくなるからである。
共存イオン効果と平衡定数
平衡定数についても、共存イオン効果を考えることができる。ここで、ABの解離を考える。
熱力学平衡定数 (無限希釈の場合まで、外挿した平衡定数)は以下の式のように表すことができる。
はAの活量である。はAの活量係数である。また、はAの濃度(mol/L)を表す。
濃度平衡定数[ tex: K_{eq}]は以下のようになる。
そのため、熱力学平衡定数は以下のように表すことができる。
イオン強度とpHの関係
イオン強度は弱酸や弱塩基の解離に影響する。そのため、緩衝液のpHにも影響する。ヘンダーソン-ハッセルバルヒの式では、pHは次のように表される。
イオン強度が減少した場合、やが増大するため、pHも上昇する。