化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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学術論文と卒業論文や修士論文のページ数が全然違うのはなぜ?

学術論文と卒業論文や修士論文のページ数が全然違うのはなぜ?

理系や化学系では、一般的な学術論文はletterやcommunicationといわれる短いものであれば、1~4ページ程度、Full paperといわれるような研究成果を丁寧にまとめたもので、長くて10ページ程度である。
一方で、卒業論文や修士論文は短くても数十ページ、修士論文なら100ページ程度を超えるのは普通である。もちろん研究分野による差や、実験の画像データなどが多くなる研究では、学生自身が写真などと自虐することもあるようにページ数がさらに多くなる。まとめると以下のようになる。

・学術論文の速報紙(letter、communication):4ページ以内程度
・学術論文(Full paper):10ページ以内程度
・卒業論文:50ページ程度
・修士論文:100ページ程度

あまり、研究に携わったことのない人であれば、「ほぼ同じ研究にも関わらずここまでページ差があるのはなぜなのか?」という疑問を持つ人もいるかもしれない。ここでは、この差について説明する。

目的が違うから

学術論文と卒業論文では、目的が全く違う。そのためにページ数にも差が生じる。
学術論文は、その研究成果を世の中に発表することが大きな目的である。
まず昔は、発表された論文を印刷して雑誌にまとめて掲載していたため、当然ページ数という制約があった。少年ジャンプに1話100ページの漫画は、ほとんど載らないのと同じである。
また、4ページと100ページのようにページ数が違うと、研究者が論文を読む速度が変わる。多くの論文に目を通して知見を得たい研究者からすると、論文は短くまとまっている方が、読む際の効率がいいのである。

そもそも学術論文は数ページではない

また論文を読む人はわかっていることだが、そもそも学術論文の数ページとは本文とメインの図表数点(4枚など)程度であることが多い。しかし、今はほとんど全ての論文にはsupporting information(SI)などの補足資料がある。論文によっては、実験手法や計算手法、実験結果の図表などがSIに掲載されている。また、SIはページ数の制限がないことが多いため、SIは20ページ、30ページといった論文も普通に存在している。

このSIも含めると学術論文であってもすでに数十ページで出版されていると捉えるべきである。

卒業論文や修士論文の目的

卒業論文や修士論文は、その課程で研究した内容や理解した内容をまとめて、学士号や修士号を取得する資格があることを示すことが目的である。
当然、研究背景や基礎的な事項の理解、実験手法の原理なども理解していることを示すことが求められるため、学術論文よりもページ数が多くなるのは当然である。

また、学術論文と卒業論文や修士論文では目的が違うため、求められている成果の基準が異なっている。卒業論文や修士論文であれば、学術論文として投稿できるほどの良い結果でなくても、実験や研究を行ったことで明らかになった知見や新たな課題なども成果といえる。極端にいえば、卒業論文や修士論文では、実験を行ったが失敗したという内容を含めていても、問題ではない。つまり、卒業論文や修士論文は、学術論文よりも多くの内容を含めることができるため、ページ数が増えやすい傾向がある。

さらに、こういった失敗などの内容は研究のノウハウとなる。研究テーマを卒業する学生から研究室にいる学生や新しく入ってくる学生に引き継がせる場合、卒業論文や修士論文に引き継ぎ資料の役割を兼用させる教員も多い。この場合、研究成果をまとめることに加えて、引き継ぎ資料という目的ももつため、当然ページ数も増えることが想定される。

まとめ

以上を簡潔にまとめると

・学術論文は、ページ数が短い方が、その論文を読む研究者にとって効率がいいから

・卒業論文や修士論文は、学生の理解度や成果を示すという目的に加えて、ノウハウや引き継ぎ資料としての目的も含まれることがあるためページ数が長くなることが多い

という、同じ研究の成果をまとめる論文でも、役割や目的が違うため、ページ数に差が生じている。
そのため、実際に卒業論文や修士論文をすでに書いてきた博士課程の学生も、学術論文を投稿する際には、多くの修正などを指摘されるというケースも多い。これも、同じ論文でも目的が変わると、執筆する際のポイントが異なるためであることも一因である。