化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)について

遷移金属ダイカルコゲナイド (TMD) とは

遷移金属ダイカルコゲナイド (遷移金属ジカルコゲナイド、Transition Metal Dichalcogenide, TMD)は構成式がMX2(Mは遷移金属原子、Xは酸素以外のカルコゲン原子)で示される物質群である。

遷移金属はモリブデン (Mo) やタングステン (W) などが遷移金属ダイカルコゲナイドを構成することが多い。

カルコゲンとは16族元素のことであるが、遷移金属ダイカルコゲナイドを構成するカルコゲンは酸素 (O) 以外の硫黄 (S)、セレン (Se)、テルル (Te)である。

この遷移金属ダイカルコゲナイドはグラファイトと同じような層状の結晶構造をもつ物質が多数報告されている。

層状構造をもつ遷移金属ダイカルコゲナイドの結晶構造は、単位層内の遷移金属イオンに対して、周りのカルコゲンイオンがどのように位置するかで大きく2種類に分けられる。一つは周りのカルコゲン原子が正八面体型の配置をとる構造であり、もう一つは周りのカルコゲン原子が三角プリズム型の配置をとる構造である。

どちらの構造をとるかは、遷移金属イオンとカルコゲンイオンの間の結合のイオン性に依存する。この結合のイオン性が大きい場合は正八面体型配置となり、この結合のイオン性が小さく共有結合性が大きい場合は三角プリズム型配置となる。

そのため、結合のイオン性が強い4族 (Ti, Zr, Hf) などの化合物は正八面体型配置をとり、結合の共有結合性が強い6族 (Mo, W) などの化合物は三角プリズム型配置となる。イオン結合性が中間となる5族 (Nb、Ta)などの化合物は両方の配置をとりうる。

遷移金属ダイカルコゲナイドの単原子層の作製

遷移金属ダイカルコゲナイドは、単原子層の作製が可能なことで知られている。単原子層の作製方法は劈開法(へき開法)もしくは剥離法、スコッチテープ法といわれる方法と、化学的気相成長法 (CVD法)の2つ報告されている。

剥離法はバルク原料をスコッチテープで剥離する方法である。剥離法では、高品質な単結晶膜が得られるが、単原子層膜の面積が数マイクロメートル四方程度であるため、面積の大きな半導体素子への応用は難しい。

化学的気相成長法 (CVD法)では、大面積の試料が得られるが、一般的に剥離法と比較すると結晶性が悪いことが知られている。

単相遷移金属ダイカルコゲナイドとグラフェン

遷移金属ダイカルコゲナイドはグラファイトと同じような層状の結晶構造をもつ物質が多数報告されており、グラフェンのように、遷移金属ダイカルコゲナイドも剥離法によって単原子層の生成が可能である。

単層の遷移金属ダイカルコゲナイドとグラフェンの違いの一つに、バンド構造がある。グラフェンはフェルミ準位近傍にディラックコーンといわれるバンドギャップのない線形分散があることが知られている。単層の遷移金属ダイカルコゲナイドはグラフェンと類似した結晶構造をもつが、グラフェンとは違いディラックコーンにギャップが開いて半導体となっている。

特に単原子層膜の場合、直接遷移型のバンド構造をもつため、光電子素子への応用が期待されている。