化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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核反応の機構、複合核モデル、直接過程について

核反応の機構を説明するモデル

核反応の機構を説明するモデルとして、複合核モデルや直接過程とよばれるモデルがある。これらは核反応の種類を限定すると、核反応の機構をよく説明できるモデルである。

複合核モデルについて

複合核モデル(compound nucleus model)は低いエネルギーで加速された粒子によって起こされる核反応を説明するためのモデルである。

複合核モデルでは、核反応がX + a → Y + bの反応の場合、まずXとaが衝突して複合核ができ準安定状態におかれる。このとき入射粒子aは標的核の核子と強い相互作用をして、もっていたエネルギーを分配する。

次にこの複合核に分配されたエネルギーが粒子bに集中する。その後、粒子bが放出粒子として複合核から飛び出す。

複合核モデルでは、複合核が準安定状態にある時間は、衝突して複合核ができる過程や、複合核から粒子が放出される過程に比べると長い。また、複合核がその後どのように変化するかは、複合核ができるまでの過程にはまったく依存しないと考える。

複合核モデルをX + a → Y + bの式に複合核Cを含めて表すと次のようになる。

X + a → C → Y + b

また、X + a → Y + bの反応の核反応断面積を\sigmaとし、X + a → Cができる断面積\sigma_cとする。また複合核CからY + bに変化する確率P_bとすると、核反応断面積は次のように表される。

\sigma = \sigma_c P_b

直接過程について

複合核モデルとは違い入射粒子が核内に入らずに、標的核の表面で相互作用する過程や、入射粒子が標的核内に入る場合でも、複合核をつくらずに特定の核子と相互作用して放出粒子を飛び出させるモデルを直接過程(direct interaction)という。

入射粒子と標的核の核子が直接的に相互作用することから直接過程とよばれている。直接過程は、一般に複合核モデルの際の核反応よりもエネルギーの高い反応に対して適応される考えだが、比較的低エネルギーの核反応でも直接過程だと考えられている反応がある。

直接過程の代表的な反応に標的核の表面で、その核子と入射粒子との間で核子のやりとりをするストリッピングとピックアップとよばれる反応がある。

ストリッピングは入射粒子が重陽子のとき、陽子か中性子のどちらかが核内に取り込まれ、残された粒子が核内に入らずに飛び去る反応である。

ピックアップはストリッピングの逆の反応であり、入射粒子の陽子や中性子が標的核内の陽子や中性子を拾い上げて核の表面で重陽子をつくり飛び去る反応である。