化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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吸着等温線と各タイプの特徴について

吸着等温線・吸脱着等温線について

単位量の吸着媒あたりの吸着量(n_a)を温度(T)一定の条件下で圧力(p)の関数として測定し、吸着量(n_a)と相対圧(p/p_0)の関係を表した曲線を吸着等温線とよぶ。ここで、p_0は気体の温度Tでの飽和蒸気圧である。

IUPACでは下に示すI~VIまでの6タイプの吸着等温線を用いて、気体の吸着挙動と固体の表面構造の関係が分類されている。図の横軸は相対圧(p/p_0)、縦軸は吸着量(n_a)を表す。

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タイプI

圧力を増加させると吸着量(n_a)は単分子層吸着での飽和値に近づく。x = \frac{p}{p_0}a' = \frac{a}{p_0}としたときに、これは次のLangmuir等温式で表される。

 \displaystyle  \frac{n_a}{n_m}= \frac{a' p}{1 + a' p} = \frac{ax}{1 + ax}

圧力が低い場合は、(1 \gg ax)であり、n_a \propto xである。そのため、吸着量は圧力と共に直線的に増大する。

比例定数aは吸着媒表面と吸着質との相互作用を表すパラメーターである。圧力が高い場合は、(1 \ll ax)であり、吸着量は一定値n_mに近づく。そのため吸着量n_mは単分子層の飽和吸着量とよばれる。

このタイプは低圧から大きな吸着が起こり、単分子層で飽和となる状況を表す。そのため化学吸着をよく表すことが予想されるが、このタイプの物理吸着が観測される場合も多い。特に、直径2 nm程度以下のミクロ細孔が存在する系では、細孔の対面に吸着した分子間の相互作用によって、低圧でも吸着が促進される。こういったミクロ細孔への吸着はミクロポアフィリングともいわれる。ミクロポアフィリングが起こるため、このタイプが観測される場合がある。

タイプII

固体面への吸着等温線の一般的なタイプであり、BET型といわれることもある。ミクロ細孔がなく、気体分子からみたときにマクロな細孔か平坦な固体面の吸着のときにみられるタイプである。単分子層の吸着がほぼ終わった後に、二層目以上への多分子層吸着が起こっている。

このタイプの曲線はBET(Brunauer-Enamett-Teller)の式といわれる次の吸着等温式で表すことができる。

 \displaystyle  \frac{n_a}{n_m}= \frac{cx}{(1 - x)(1 + (c - 1)x)}

吸着分子は第一相のみが固体面と相互作用して、その吸着熱は\Delta H_Iである。また第二層以上の吸着は下層との相互作用によって起こる。その吸着熱は気体の凝縮熱\Delta H_Lと等しいとして導かれる。これらの吸着熱は次の式でcの中に入っている。

\displaystyle c = k e^{\frac{(\Delta H_I - \Delta H_L)}{RT}}

kは定数である。

cが20~500程度であるような、固体面と吸着分子の相互作用が強い場合には、低圧でも吸着量が大きくなりタイプIIが観測される。

タイプIII

タイプIIと同様に多分子層吸着である。しかしながら、タイプIIと違い固体面と吸着分子の相互作用が弱く、低圧での吸着量が小さい場合にみられる。 c \lt 1とするとBET吸着等温式からこのタイプの等温線が得られる。

タイプIV

このタイプの吸着等温線は飽和蒸気圧に到達する前に急激に吸着量が増大することや、吸着曲線と脱離曲線が一致しないヒステリシスが観測されるなどの特徴がある。

タイプIIのように固体面と吸着分子の相互作用が強い場合であり、固体にメソ細孔(2 nm ~ 50 nm)があるような場合に観測される。細孔内で凝縮が起こる場合、固体面と吸着分子の相互作用が強いので下方に凸のメニスカスが細孔内にできる。この場合、通常の圧力よりも低い圧力でメソ細孔内で凝縮が起こる。この現象は毛管凝縮といわれる。

タイプV

タイプIVと同じようにヒステリシスをもつ等温線である。これはタイプIIIと同じように固体面と吸着分子の相互作用が弱い場合であり、固体にメソ細孔(2 nm ~ 50 nm)があるような場合に観測される。

タイプVI

タイプVIの吸着等温線は階段状であることが特徴的である。これは細孔の存在しない平滑表面への多分子層吸着である。また階段の高さが一定であることは、吸着層が一層ごとに相転移的に完成されていることを示している。このタイプは吸着分子間の引力が大きい物理吸着の場合にみられる。