化学徒の備忘録

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キレートとキレート効果:キレートの生成定数が大きい理由

キレート

一つの金属イオンに対して、配位することのできる配位原子 (錯形成官能基) を一つしかもっていない配位子を単座配位子、一つの配位子が配位原子を二つもっているものをニ座配位子という。そして、一つの配位子が配位原子を二つ以上もっているものを多座配位子という。

多座配位子が中心原子に配位した錯体をキレート錯体、キレート化合物、もしくはキレートという。また、多座配位子のことをキレート試薬ともいう。

キレートはギリシア語で"カニなどのハサミに似た"という意味の単語が由来となっており、キレート試薬は金属イオンを挟み込むように配位する。

また金属原子と多座配位子から形成される複素環をキレート環といい、キレート環を形成する現象はキレート化といわれる。

キレート試薬は多くの金属イオンと安定なキレートを形成するため、金属イオンの滴定に用いられることも多く、その滴定はキレート滴定といわれる。

キレート効果について

二座配位子が環状構造をもつ錯体を作るとき、この配位子と類似した単座配位子が2個配位子した錯体よりも生成定数が大きくなる。これは、キレート環を形成することによって、錯体が安定するためである。この現象をキレート効果という。

このキレート効果は熱力学的な効果で考えることができる。

化学反応のギブズの自由エネルギーの変化は  \Delta G = \Delta H - T \Delta Sであり、\Delta Gが負の方向に自発的に進行する。そのため、エンタルピーの減少(\Delta H \lt 0 )の方向とエントロピーの増大( \Delta S \gt 0)の方向に自発的に進行する。

そこで、水溶液中のCu2+にアンモニアが配位する場合と2個のアミノ基をもつエチレンジアミン (en) が配位する場合について考える。

水溶液中では、Cu2+はヤーン・テラー効果から水分子を4つ配位させ、[Cu2+(OH2)4]2+として存在している。ここのアンモニアが結合して[Cu(NH3)4]2+となる場合、反応の前後では総分子数は変化しない。そのため、( \Delta S )もほとんど変化しない。

一方で、エチレンジアミンが配位する場合を考える。似た官能基をもつ配位子が関与する反応のエンタルピー変化(\Delta H )は同程度であり、アンモニアとエチレンジアミンの配位は同程度の熱を生じる。

しかし、エチレンジアミン (en) が配位して[Cu(en)2]2+となる場合、反応後に4つの水分子が放出されるため、反応後は総分子数が2個増える。そのため、エントロピーが増大し( \Delta S \gt 0)、反応後に( \Delta S )は大きくなる。

そのため、アンモニアが配位する場合に比べて、エチレンジアミンが配位する場合の方が、ギブズの自由エネルギーの変化  \Delta Gは、より負の値となる。

このようにキレート効果は主にエントロピーによる効果と考えることができる。また、このエントロピーの効果によって、生成定数も大きくなる。

また、配位する原子を6個もっているエチレンジアミン四酢酸 (EDTA) の錯体はキレート効果が顕著に現れ、生成定数は非常に大きい。