化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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【無機化学】群論と対称操作・対称要素、点群とフローチャートを丁寧にわかりやすく解説

群論と対称操作・対称要素

分子の対称性は、分子の物理的性質や光学的性質に影響を与え、反応がどのように起こるかの手がかりとなる。この分子の対称性に対して、系統的かつ数学的に取り扱ったものを群論(group theory)といわれる。

群論の基本的な考え方は、対称操作である。

対称操作とは、分子がまったく同じ形に見えるように動かす操作のことである。例えば、H2O分子を180度回転させると、同じ形に見えるというような操作である。

各対称操作には、対称操作に対応した対称要素が存在している。対称要素とは、対称操作を行う際に区別する目安となる点、直線、平面のことである。

球は回転させても、その中心は動くことがない、このように、どのような対称操作においても動かない点が分子の中に少なくとも1つは存在している。これら対称操作は点群対称の操作ともいわれる。

対称操作についてまとめると以下の表のようになる。

恒等操作

分子に対して何もしない対称操作を恒等操作という。恒等は記号Eで表す。どのような分子でも、恒等操作はあり、恒等操作しか対称操作がない分子も存在する。

n回回転

n回回転軸といわれる軸のまわりの回転に関する対称操作をn回回転という。これは360°/nだけ回転したときに分子が元と同じ形に見える場合の操作である。n=2、3、・・・などのようにnには整数が入る。対称要素はn回回転軸であり、記号C_nで表される。

例えば、H2O分子は180度回転させると、元の形と一致する。つまり、360°/2 = 180°であるため、n=2となり、 C_2操作といわれる。

分子が2種類以上の異なる回転軸を持っている場合、最もnの大きな回転軸を主軸という。nが大きい回転軸のことを次数の高い回転軸と表現することもある。この主軸をz軸と定義することが慣例である。

いくつかの分子では、主軸が、主軸よりもnの小さな(低次)の軸と一致することがある。例えば、平面正方形型の分子は90°毎に回転させる4回回転が行えるため、C_4となる。当然この軸は180°回転させる2回回転のC_2とも一致している。

軸が同じnで2つ以上ある場合、C_2C_2'のように区別する。

鏡映 (反射)

分子のすべての部分を、ある平面に対して鏡に映すように反対側の位置に折り返したときに元の分子と同じ配置が得られる操作を鏡映もしくは反射という。

鏡映操作に対応する対称要素である反射させる平面を鏡映面、もしくは鏡面という。記号は \sigmaで表す。

鏡映は、主軸との角度に対応して記号の区別がある。鏡映面に対して主軸が垂直である場合、\sigma _hと表す。この面が分子の主軸に対して垂直であることから、水平な面であることを表し、hは水平方向を意味するhorizontalから来ている。

鏡映面に主軸が含まれる場合\sigma _vで表す。これは鏡映面が分子の回転軸を含むことから垂直を表し、vはverticalから来ている。

主軸を含む鏡映面で2本の隣り合う2回回転軸がなす角を二等分する場合、\sigma _dと表す。これは二面角を二等分するdihedralから来ている。

まとめると以下の表のようになる。

反転操作

分子のすべての部分を、分子の中心にある一点に関して、各原子を通る直線上でこの原子を中心に対して反対側の同じ距離まで反転させた場合、この操作を反転操作という。

反転操作の対称要素は反転の中心点であり、反転中心という。記号はiで表す。

八面体形分子の場合、分子の中心は八面体の中心点となり、反転操作では八面体の向かい合った頂点にある原子が入れ替わる。

ただし、反転中心には必ずしも原子が存在する必要はない。また反転操作と2回回転が同じ場合もあるが、一致しない場合が多く、これらは区別する必要がある。

回映

分子をある軸の周りで、ある角度回転させ、次に回転軸に垂直な面に対して鏡映操作を加えて行う対称操作を回映という。

対称要素はn回回映軸もしくはn回転義回転軸といい、記号はS_nで表される。n=2、3、・・・などのようにnには整数が入る。4回回映の場合はS_4のように表す。

例えば、n回回転と鏡映操作のそれぞれ単独では対称操作にならない場合でも、回映操作では対称操作となることもある。CH4などの四面体型分子は、回映となる。

S_1軸では、360°回転させてから軸に垂直な平面に対して鏡映を行う操作は、この平面に対して鏡映操作を行っただけの操作と同じである。つまりS_1\sigma _hは等しくなる。この場合、一般的にはS_1ではなく、\sigma _hで表す。

同じように、180°回転させてから軸に垂直な平面に対して鏡映を行うS_2操作は、反転[tex]i]と等しくなる。この場合、一般的にはS_2ではなく、iで表す。

分子の点群

分子の対称操作では、分子の対称操作の組み合わせは分子の対称性によって異なる。つまり分子の対称性は分子のもつ対称操作の集合で表すことができる。この対称操作の集まりは、点群といわれる。この点群は対称性を分類するために重要なものである。ある分子は点群に属するという。

分子や結晶を取り扱う際に、特に重要な点群は32個あり、これらを分子点群という。

点群の記号としては、シェーンフリース記号ヘルマン-モーガン記号(国際記号)の2種類がある。化学ではシェーンフリース記号が使われることが多い、結晶ではどのような対称性かがわかりやすいヘルマン-モーガン記号(国際記号)が使われることが多い。

シェーンフリース記号は、対称操作の記号と関係があるが、混同しないように注意する必要がある。

単純な回転軸をもつ点群をC、回映軸をもつ点群をS、主軸と主軸に垂直な2回軸をもつ点群をDでそれぞれ表す。右下に主軸が何回軸かを表す数字や鏡映面の存在を表す。鏡映面の場合は、 \sigma _hの場合はh \sigma _vの場合はv \sigma _dの場合はdをつける。

例えば、C_{3v}は、C_3軸と \sigma _v鏡映面をもつ点群を表す。D_{5h}C_5軸と、それに垂直なC_2軸、\sigma _h鏡映面をもつ点群を表す。

同様に、C_1は恒等操作E以外の対称操作をもたない点群を表す。
C_sは恒等操作と鏡映面のみをもつ点群を表す。
C_iは恒等操作と対称心のみをもつ点群を表す。

直線分子が属する点群としては、\sigma _h鏡映面をもたない C_{ \infty v}\sigma _h鏡映面をもつ  D_{ \infty h}などがある。
対称性の高い点群としては、正四面体を表すT_dや、正八面体を表すO_h、正二十面体を表すI_hなどが存在する。

点群を決めるフローチャート

点群を決める際は、系統的に判断していくことが重要である。なぜなら系統的に判断していかないと、対称要素を見落としてしまい、帰属を間違えてしまう可能性があるからである。

そこで以下のようなフローチャートで判断していくことが一般的である。

このフローチャートはオレンジのボックスの質問にYesかNoで下へ進み、たどり着いた青のボックスが点群を表している。点群はシェーンフリース記号で表している。

C1点群

分子の対称性がほとんどない分子であっても、対称要素Eがあり、C_1回転軸がある。これらの分子はC_1点群に属する。

ただし、C_1 = Eであるため、この点群の対称要素を示す際に、回転の対称要素C_1は示さない。

C∞v点群

 C_{\infty}は∞回転軸である。これは直線形分子がもつ回転軸の存在を表す。 C_{\infty v}点群に属する分子には無限個の \sigma _v面があるが、 \sigma _h面や反転中心はない。

HFやCOのような非対称の二原子分子やOCSやHCNのような非対称の直線形分子がC_{\infty v}に属する。

D∞h点群

対称な二原子分子や、直線形分子は、 C_{\infty}軸と無限個の\sigma _v以外に、 \sigma _h面がある。これらの分子がD_{\infty h}に属する。

Td点群・Oh点群・Ih点群

 T_d、O_h、I_h点群に属する分子は、多くの対称要素をもっている。正四面体T_dは対称中心をもっていないが、正八面体O_hは対称心をもっている。

正四面体T_dと正八面体O_hは立方体の対称性と密接に関係していることから、立方体群という。

また、正多面体で考えると、例えば、立方体と正八面体は同じO_hに属する。正十二面体と正二十面体は同じI_hに属する。
これらの同じ点群に属している正多面体は、片方の多面体の頂点を切り落としていくと、もう他方の多面体になるという関係がある。このような関係は双対という。また切り落としていく過程で現れる多面体も同じ点群に属している。
他にもフラーレンは、I_hに属している。