化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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アルコール消毒の仕組み・70%アルコールが効果的な理由

アルコールとは

アルコールとは、炭化水素の水素(H)原子が、ヒドロキシ基(-OH)で置換された化合物(アルコール類)の総称です。

そのため、アルコールは親油性の部分と親水性の部分であるヒドロキシ基をもっています。

消毒や酒類の成分としてしられているものはアルコールのうちエタノール(エチルアルコール)である場合が大半です。2020年現在、消毒アルコールが入手困難なため、度数が70%程度の高濃度の酒類が消毒液としても代用できるといわれていますが、その理由の一つはこのように同じエタノールが使われているためです。

アルコール消毒の仕組み

アルコールのうち、ここではエタノールを取り上げます。しかし、アルコール類は、炭素鎖が10まで長くなればなるほど親油性も強くなり、殺菌効果も強くなります。そのためイソプロパノール(IPA)などのアルコールも殺菌に利用することができます。

 

ウイルスはエンベロープ(脂質性の膜)のあるウイルス(エンベロープウイルス)とエンベロープのないウイルス(ノンエンベロープウイルス)に分類されます。

エンベロープウイルスのエンベロープはアルコールによるダメージを受けやすく、アルコールが膜を壊します。

また膜であるエンベロープが壊れることで、アルコールがウイルス本体のタンパク質を変性し、感染力が低下するダメージを与えます。

消毒エタノールが70%である理由

エタノールの殺菌効果は濃度が40%から急速に現れ、70%で最大となります。そのため、低濃度エタノールでは殺菌に時間がかかり、20~40%ではウイルスの死滅時間は10~30分程度かかるといわれています。一方で、40~80%ではウイルスの死滅時間は5分以内です。

さて、重量70%のエタノール水溶液の場合、エタノール:水の分子の割合が1:1となります。このとき、エタノールは水素結合、疎水結合によってポリマー様構造を形成し、さらに水分子と会合することでクラスター構造を形成します。

この構造がエタノールが70%で消毒作用が高くなる理由と考えられています。

アルコール消毒は万能じゃない

アルコール消毒はインフルエンザウイルスやコロナウイルスは不活性化することが可能です。しかし、アルコール消毒は万能ではありません。冬の嘔吐や下痢の原因として知られているノロウイルスやロタウイルスなどのウイルスはエンベロープ(脂質性の膜)を持ちません。また風邪の原因であるアデノウイルスやライノウイルスもエンベロープ(脂質性の膜)を持ちません。そのため、あまりアルコール消毒の効果は薄くなり、除菌にはウイルスをアルコールと長時間接触させる必要があります。

石鹸での手洗いによるウイルスの除去も重要ということですね。