化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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マーデルング定数:イオン結晶の静電ポテンシャルを表す定数

マーデルング定数

マーデルング定数とは、イオン結晶の結晶構造によって定まる結晶格子の静電ポテンシャルを定める定数である。

結晶内のあるイオンを原点とし、クーロン力による反対符号イオンとの引力、同符号イオンとの斥力を無限遠まで順次計算すると、ある一定の値に収束することが予測されるが、その値がマーデルング定数となる。

このマーデルング定数は、イオン結晶の内部におけるイオン間の静電相互作用を計算する際に使われる。隣接イオン間の静電相互作用が最も大きいため、マーデルング定数は配位数が増加すると一般的には増加する。電荷数は正と負なのでポテンシャルは負となり、互いに離れた位置にある気相のイオンから結晶格子ができる場合の安定化を示す指標である。

マーデルング定数は、イオン結晶の結晶構造によって異なる。例えば、塩化ナトリウム構造では1.7476、塩化セシウム構造では1.7627、閃亜鉛鉱構造では1.6381となる。

イオン結合では、イオンを点電荷として近似すると、クーロン引力によって生じるポテンシャルエネルギー (マーデルングエネルギー) を計算することができる。

結晶中のi番目のイオンとj番目のイオンが距離r_{ij} = | r_j - r_i | だけ離れているとき、この2つのイオン間のクーロン力によって生じるポテンシャルエネルギーE_{ij}は、i番目のイオンの電荷をZ_ie、真空の誘電率を\epsilon _0とすると、次のように表される。

\displaystyle E_{ij} = \frac{Z_i Z_j e^2}{4 \pi \epsilon_0 r_{ij}} 

そのため、i番目のイオンと、それ以外の全てのイオンとの間のクーロン力によって生じるポテンシャルエネルギーE_iは、次のように求めることができる。

\displaystyle E_i = \sum _{j \neq i  } E_{ij} = \frac{e^2}{4 \pi \epsilon_0 } \sum_{j \neq i  } \frac{Z_i Z_j}{r_{ij}}

また、最近接イオン同士のクーロン力によって生じるポテンシャルエネルギーE_{+-}は次のように表される。

\displaystyle E_{+-} = \frac{Z_+ Z_- e^2}{4 \pi \epsilon_0 d}

そして、マーデルング定数M_aは、i番目のイオンと、それ以外の全てのイオンとの間のクーロン力によって生じるポテンシャルエネルギーE_iを、最近接イオン同士のクーロン力によって生じるポテンシャルエネルギーE_{+-}で割ることで得られ、最近接イオン間の距離をdとすると、次のようになる。

 \displaystyle M_a = \frac{d}{Z_+ Z_- } \sum_{j \neq i  } \frac{Z_i Z_j }{r_{ij}}