ハイエントロピー合金とは
ハイエントロピー合金もしくは高エントロピー合金 (High entropy alloy, HEA) とは、合金を構成する元素が5成分以上であり、その5成分以上の多成分がほぼ等原子組成比で、そして単相固溶体を形成する合金である。従来の合金の多くは主要構成元素と微量の添加元素によって構成されているのに対し、ハイエントロピー合金は複数の構成元素が等原子の組成であることが大きく異なる。
しかし、ハイエントロピー合金は近年、新たに考えられている概念であり、その定義については様々な考え方が提唱されている。そのなかでも、特にエントロピーに基づく定義として次のようなものがある。混合のエントロピーを、気体定数を、成分のモル分率を、成分数をとしたとき、次のように表される。
そして、ハイエントロピー合金は次のように定義される。
またこのエントロピーによって、中エントロピー合金 (Medium Entropy Alloy, MEA) や 低エントロピー合金 (Low Entropy Alloy, LEA) も定義がされている。
中エントロピー合金 (Medium Entropy Alloy, MEA)は次のように定義される。
低エントロピー合金 (Low Entropy Alloy, LEA)は次のように定義される。
この定義でも、4成分の等原子組成合金では、5成分の等原子組成合金ではとなり、5成分以上の多成分がほぼ等原子組成比である合金がハイエントロピー合金ということになる。
ハイエントロピー合金の特徴
ハイエントロピー合金に現れる効果として、ハイエントロピー効果 (High entropy effect)、激しい格子歪みの効果 (Severe lattice distortion effect) 、緩慢拡散効果 (Sluggish diffusion effect)、カクテル効果 (Cocktail effect)の4つがあるといわれている。
ハイエントロピー効果 (High entropy effect)
混合エントロピーが高いため、特に高温で、固溶相の自由エネルギーが低下し、固溶相の形成が促進される効果である。
激しい格子歪みの効果 (Severe lattice distortion effect)
ハイエントロピー合金は、多くの大きさの異なる元素で構成されるため、必然的に格子歪みがうまれる。この、格子歪みによって、転移の動きが妨げられることで、固溶体相が安定となる。また、伝播する電子とフォノンの散乱が増加するため、電気伝導率や熱伝導率が低下する。
緩慢拡散効果 (Sluggish diffusion effect)
ハイエントロピー合金では、拡散係数が小さく、相転移の速度が遅くなる効果である。
カクテル効果 (Cocktail effect)
カクテル効果 (Cocktail effect) は、合金を構成する元素の単純な足し合わせではなく、複合的な影響によって、特異的な物性が現れる効果である。
例えば、一般的な合金では軽い元素を添加すると密度は低下する。しかし、CoCrCuFeNiに軽い元素であるAlを加えると、逆に合金の硬度が高くなる。
ただしハイエントロピー合金の概念が新しいため、これらの効果の日本語の名称について教科書などで定義されていないことが多く、ここの効果は記事著者の訳である。
参考文献
Ming-Hung Tsai & Jien-Wei Yeh (2014) High-Entropy Alloys: A Critical Review, Materials Research Letters, 2:3, 107-123, DOI: 10.1080/21663831.2014.912690