化学徒の備忘録

化学系の用語や論文をわかりやすく紹介していきます

分子機械 (分子マシン) ・ナノカー・ナノ電車について

分子機械・分子マシンとは

分子機械 (molecular machine) とは、並進や回転などの制御された機械的な動作をする分子や分子集合体のことである。分子マシンということもある。

分子のスケールやナノスケールであることが一つの特徴であり、大きさがナノメートルのものはナノマシンともいわれる。

分子機械は次のように大きく生体内分子機械合成分子機械半人工分子機械の3つに分類される。

  • 生体内分子機械:生体内に存在しているタンパク質が複合してできた分子機械
  • 合成分子機械:有機物などを設計して人工的に合成した分子機械
  • 半人工分子機械:生体内分子機械を加工した分子機械

 生体内分子機械として、筋肉運動をつかさどるミオシンや、ミドリムシの鞭毛 (べんもう) を動かすモーター、生体内のATP (アデノシン三リン酸) 合成酵素などが知られている。

合成分子機械は、身の回りの機械や、生体内の分子機械の動きをヒントに考案されたものが多い。合成分子機械は、同じ動きを繰り返し行うことができるものや、光、熱、pH変化、酸化還元反応などの外部からの刺激に応答して分子の構造が変化するものがある。

2分子のクラウンエーテルをアゾベンゼンで連結した化合物が合成分子機械の最初の例として知らている。この分子機械は、紫外線、可視光線の照射でアゾベンゼンユニットをシス体、トランス体に異性化させると、分子構造が大きく変化する。そのため、カチオンに対する親和性を変化させることができる。

また、合成分子機械では、パーツとなる分子として、環状化合物が鎖のように絡み合って連結した形状のカテナン (catenane) や、輪っか分子に棒状の軸分子が貫通した構造のロタキサン (rotaxane) がある。

カナテンやロタキサンを利用して外部刺激によって軸に沿って輪を左右に往復させる分子シャトルや輪を上下させる分子エレベーターの合成が行われた。

他には、分子内の一部分が他の部分に対して一方向に回転する分子ローターや、動きを伝達する歯車の仕組みを利用することで、実際にゲスト分子を捕捉してねじることができる分子ピンセットも知られている。また、DNAがもつ相補性を利用して動作するDNSピンセットも報告されている。

さらに光照射によって、一方向にだけ回転する駆動型分子モーターの合成も報告されている。分子モーターはドラッグデリバリーシステムへの応用も期待されている。

こういった合成分子機械の設計と合成の成果に対して、2016年にノーベル化学賞が授与された。

ナノカーについて

分子機械の利用の一つとしてナノスケール車体に回転するナノスケールの車輪がついている構造をナノカーという。

ナノカーは車体と車輪を結ぶ分子結合が1本の場合、分子結合が回転できることを利用している。これによって、車輪のみが回転する構造が実現する。

ナノカーの有名な例として車体としてベンゼン環を三重結合を介してH型に結合したものを用い、車輪として球形の分子のフラーレンを取り付けたものが知られている。

こういったナノカーは、平坦な基板上で熱をかけると、回転しやすい方向へと動き出すことが確認されている。

またナノスケールの針 (ナノプローブ) で押すと、進行方向には動くが、横方向にはすべらないことも確認されている。

さらに、分子モーターを車輪部分に付け、ナノプローブから電圧を与えることでナノカーを動かすナノ四輪駆動も実現されている。

こういったナノカーもドラッグデリバリーシステムへの応用が期待されている。

最近では2017年4月に、フランスのトゥールーズで、世界初の「ナノカーレース(NANOCAR RACE)」が開催された。これはナノカーが全長100nmのサーキットを走るものであり日本からも参加したことでメディアにも取り上げられた。

ナノ電車について

ナノカーが経路が決まっていないのに対し、ナノスケールで経路にそって動くナノ構造のことをナノ電車ということがある。特に経路にそって動き、ある地点で内包物を放出する機構をもっているものがナノ電車として知られている。

ナノ電車では、カーボンナノチューブとリボソームの分子複合体からなるナノ構造であるものが知られている。これは、ガラス基板上に形成されたマイクロ流路を進む際に、電位の勾配によって進行方向を決定することが可能である。そして流路に対して、出発地と目的地に電圧を加えると自動的に最短経路を選択する。これに、カーボンナノチューブの光照射による加熱効果と、リボソームの温度上昇による構造変化を組み合わせると、内包物を放出するナノ構造となる。

他には長い分子の鎖の上を分子モーターが走る構造もあり、DNAの特性を利用して目的地を正しく選択する。