酵素とは
細胞の中では常に数千種類の化学反応が進行していると考えられるが、それらはすべて酵素(enzyme)の触媒作用によって起こっている。また、この場合の酵素はほぼすべてタンパク質である。
触媒とは、自分自身は変化しないが、化学反応の速度を高める物質のことである。
化学反応が起こるためには、必ずエネルギーが必要であり、このエネルギーのことを活性化エネルギーという。触媒はこの活性化エネルギーを小さくし、反応速度を高める。
酵素の特徴
酵素は細胞内で反応を促進するために、工業的に使われる化学触媒とは異なる性質をもっている。
1.触媒能力が高い
酵素は触媒のない状態と比較して106~1012倍反応を促進するが、これは化学触媒と比較して非常に速い。
2.高度な基質特異性をもつ
反応を受ける分子のことを基質という。酵素は、この基質と反応によって生じる生成物の両方に対して高い特異性をもっている。つまり、酵素はその特定の反応のみに関与する。化学触媒では、別の反応にも関与することで、目的物以外に副産物が生じる場合も多い。
3. 穏やか触媒条件をもつ
化学触媒と比較して低い温度である30~50℃、中性であるpH7に近い領域、大気圧に近い圧力などで酵素による反応が充分に進行する。
ただし高温下で生息しているバクテリアなどの高度好熱菌などの細胞内には100℃でも充分に反応を触媒する酵素が存在している。
酵素の分類
基本的に一つの酵素は一つの働きをもっている。これらの酵素は働きによって、6種類に分類することができる。
1.酸化還元酵素
2種類の基質の間で酸化と還元を行う。片方の基質が酸化された場合、もう一方の基質は還元される。アルコールデヒドロゲナーゼなどが酸化還元酵素である。
2.転移酵素
一方の基質の化学基(官能基)を、他方の基質に移す。アミノ基質転移酵素などが転移酵素である。
3.加水分解酵素
エステル結合やペプチド結合などの化学結合を加水分解する。トリプシンやアミラーゼなどの酵素が加水分解酵素である。
4.脱離酵素
加水分解以外の反応で基質から化学基を除く。ピルビン酸脱炭酸酵素などが脱離酵素である。
5.異性化酵素
基質を別の異性体へと変化させる。グルコースー6ーリン酸イソメラーゼなどが異性化酵素である。
6.合成酵素
エネルギーを使って新たな共有結合を形成する。アミノアシルtRNA合成酵素などが合成酵素である。