化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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放射平衡と過渡平衡、永続平衡の条件、放射平衡が成立しない条件について

放射平衡について

放射壊変によって親核種から娘核種が生成する。この娘核種が安定な場合は、時間が経過すると娘核種の個数は増加する。一方で、生成した娘核種が放射性核種である場合、親核種の壊変と同時に、娘核種の壊変も起こる。このとき、親核種による放射能と娘核種による放射能の比率が一定の比率で安定な平衡状態となっている状態を放射平衡という。

放射性核種Aが壊変し、放射性核種Bが生成する場合を考える。このとき、核種Aの個数をN_A、核種Bの個数をN_B、Aの壊変定数を\lambda_A、Bの壊変定数を\lambda_Bとする。このとき時刻をtとすると次の関係が成り立つ。

 \displaystyle \frac{\rm{d}\it{N}_A}{\rm{d}\it{t}} = - \lambda_A N_A

 \displaystyle \frac{\rm{d}\it{N}_B}{\rm{d}\it{t}} = - \lambda_A N_A - \lambda_B N_B

次に時刻t = 0の場合を考える。時刻t = 0場合の核種Aの個数をN_{A0}、核種Bの個数をN_{B0}とする。このとき次の関係が成り立つ。

N_A = N_{A0} e^{-\lambda_At}

この式を次の式に代入する。

 \displaystyle \frac{\rm{d}\it{N}_B}{\rm{d}\it{t}} = - \lambda_A N_A - \lambda_B N_B

そうすると、次の関係が得られる。

 \displaystyle \frac{\rm{d}\it{N}_B}{\rm{d}\it{t}} + \lambda_B N_B - \lambda_A N_{A0} e^{-\lambda_At} = 0

ここでN_B = uvとし、上の式に代入すると次のようになる。

 \displaystyle u(\frac{\rm{d}\it{v}}{\rm{d}\it{t}} + \lambda_B v) + (v\frac{\rm{d}\it{u}}{\rm{d}\it{t}} - \lambda_A N_{A0} e^{-\lambda_At}) = 0

これを第一項と第二項の括弧内を0とおいて式を解くと次の解が得られる。

\displaystyle N_B = \frac{\lambda_A}{\lambda_B - \lambda_A} N_{A0} (e^{-\lambda_A t} -e^{-\lambda_B t}) + N_{B0} e^{-\lambda_Bt}

時刻t=0のときに娘核種Bが存在しない場合は、この式は次のようになる。

\displaystyle N_B = \frac{\lambda_A}{\lambda_B - \lambda_A} N_{A0} (e^{-\lambda_A t} -e^{-\lambda_B t})

ここで親核種Aと娘核種Bの壊変定数の大小の関係により、3つの場合を考える。

1. \lambda_A \lt \lambda_Bの場合(過渡平衡の場合)

親核種Aの半減期が娘核種Bの半減期よりも長い場合である。この場合は、過渡平衡という放射平衡に達し、十分な時間が経過すると娘核種は親核種の半減期で減衰するようになる。

放射性核種の壊変率もしくは放射能は、時間とともに次のように変化する。最初は親核種の壊変により、娘核種の放射能は急激に増加し極大に達する。極大を越えると、 \lambda_B N_Bの減少の割合は一定に達する。

十分な時間が経過した場合、次の関係が成り立つ。

e^{- \lambda_A t} \gt e^{- \lambda_B t}

よって、娘核種Bの個数は次のようになる。

\displaystyle N_B = \frac{\lambda_A}{\lambda_B - \lambda_A} N_{A0} e^{-\lambda_A t}

また、親核種Aと娘核種Bの個数の比は次のように一定となる。

  \displaystyle \frac{N_A}{N_B} = \frac{\lambda_B - \lambda_A}{\lambda_A}

また、壊変によって娘核種が減少する速度は次のようになる。

 \displaystyle \frac{\rm{d}\it{N}_B}{\rm{d}\it{t}} = - \lambda_A N_B

このことから娘核種が親核種の壊変定数に従って減衰することがわかる。このような場合の放射平衡を特に過渡平衡という。

2. \lambda_A \ll \lambda_Bかつ核種Aの半減期が長い場合(永続平衡の場合)

1.の場合よりも親核種と娘核種の半減期の差が非常に大きく、親核種Aの半減期も非常に長い場合である。この場合、親核種の半減期が非常に長いために \lambda_A N_Aの時間変化はみられなくなり、放射平衡に達した後 \lambda_B N_Bの時間変化もみられない。このような放射平衡を永続平衡という。

この場合、親核種Aと娘核種Bの個数の比は次のように一定となる。

  \displaystyle \frac{N_A}{N_B} = \frac{\lambda_B}{\lambda_A}

また、次の関係が成り立ち、親核種の放射能と娘核種の放射能は等しいことがわかる。

 \lambda_A N_A = \lambda_B N_B

3.\lambda_A \gt \lambda_Bの場合(放射平衡が成り立たない場合)

娘核種の半減期が親核種の半減期よりも長い場合である。この場合、放射性核種の壊変率もしくは放射能は、時間とともに次のように変化する。最初は親核種の壊変により、娘核種の放射能は急激に増加し極大に達する。極大を越えると、娘核種の半減期に従い減衰していく。親核種は娘核種と比較して半減期が短いため、十分な時間が経過すると、親核種はすべて娘核種に壊変する。そのため、放射平衡は成立しない。

この場合は、十分な時間が経過すると次の関係が成り立つ。

e^{- \lambda_A t} \lt e^{- \lambda_B t}

よって、娘核種Bの個数は次のようになる。

\displaystyle N_B = \frac{\lambda_A}{\lambda_A - \lambda_B} N_{A0} e^{-\lambda_B t}