化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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沈殿法について

沈殿法について

沈殿法は、溶媒の中に溶解している溶質を沈殿粒子として取り出す合成手法である。
沈殿粒子を得るためには、溶液を不飽和な状態から過飽和な状態にし、結晶核の生成と成長を促して、沈殿粒子化する必要がある。溶液を過飽和な状態にする方法はいくつかある。

(1)溶解度の温度依存性を利用する方法

溶液を不飽和な状態から、温度変化を利用することで、過飽和な状態にする方法である。
例えば、溶媒を冷却することにより、不飽和な状態から過飽和な状態にすることができる。
ただし、溶媒の温度を下げると溶解度が上がる場合や、溶媒の温度と溶解度がほとんど相関しない場合もある。


(2)溶媒を蒸発によって濃縮する方法

溶液を不飽和な状態から溶媒を蒸発させることで濃縮し、濃度を高くすることで過飽和な状態にする方法である。

(1)溶解度の温度変化を利用する方法や(2)溶媒を蒸発濃縮する方法は大型の単結晶の合成に適している。飽和状態から過溶解度までの間の領域(溶解度曲線と過溶解度曲線の間の領域)のことを、不均一(異質)核生成領域という。この領域では、結晶核が自発的に生成し成長するには充分な過飽和度ではない。そのため、核発生を誘発できるサイトが必要となる。よって、種となる結晶をこの溶液中に入れると、その表面でのみ成長が起こり、大型の単結晶が得られる。
過溶解度曲線よりもさらに過飽和な状態の領域を均一(同質)核生成領域という。この領域では核が自然発生する。そのため、微細な沈殿粒子を得るためには、この領域を利用する方法が適している。


(3)化学反応や化学平衡を利用する方法

沈殿剤を用いる場合や均一沈殿法を利用する方法である。

この化学反応や化学平衡を利用する方法は一般的に用いられる方法である。
溶質の溶解度は溶液の水素イオン濃度(水素イオン濃度指数、pH)や 酸化還元電位E'によって大きく変化することが知られている。
そこで、酸や塩基などを用いることで溶液を過飽和となるpHや酸化還元電位の条件に変化させることができる。この酸や塩基などのことを沈殿剤という。この方法で沈殿を生成する場合は、目的物の溶解度積をもとに沈殿に必要なpHを考える必要がある。
化学反応や化学平衡を利用する方法においては、沈殿剤の周辺で大きなpHの変化が生じる。そのため得られる沈殿粒子が微粒子になったり、沈殿粒子が沈殿剤を取り込んだりすることがある。こういった不具合を生じさせないために、均一沈殿法が用いられる。
均一沈殿法は溶液内で化学反応を進めることで、溶液全体のpHや酸化還元電位を均一に変化させ、均質な条件で沈殿粒子を生成する方法である。
沈殿剤を用いる合成法では、用いた沈殿剤の成分が沈殿物に取り込まれることがある。そのため洗浄をする必要がある。しかしながら、得られた粒子が微細な場合にはろ過による洗浄操作が困難なことがある。
この場合、沈殿操作後すぐにろ過をせず、溶液を室温で数時間程度静置する、ゆっくりと撹拌する、少し加熱するなどの操作によって、ろ過分離が容易になることがある。この操作を熟成という。これにより微粒子間での粒子合体が進むため、ろ過がしやすくなる。

 

(4)添加物により溶解度を下げる方法

共通イオン効果を利用する方法や共沈法といわれる手法がある。

この添加物により溶解度を下げる方法は、共存するイオンにより目的物の溶解度が変化する現象を利用する。このような働きをもつものを共通イオンという。またそのはたらきを共通イオン効果という。
共通イオン効果を利用すると、単独では沈殿が得られないようなpH条件でも複合物状態や化合物状態の沈殿粒子を得ることができる。
この現象を共沈という。この方法は複数種類のイオンを同時に沈殿物として合成する際に適している。
しかし組成が仕込みに対して異なる場合もある。例えば沈殿しにくい条件のイオンは他のイオンと比べて溶解度が高い。そのため、溶液中に残る濃度が高くなる。
これが大きい場合には、沈殿物に組成の違いが生じる。この影響を避ける方法として、高濃度の条件で合成する方法や、組成のずれを予測し仕込み組成を調整しておく方法がある。