化学徒の備忘録

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全軌道角運動量、スピン角運動量、スピン軌道相互作用の解説

1電子の場合は、主量子数、全角運動量量子数、磁気量子数、スピン量子数が電子を表します。一方で、2電子以上の場合の表し方について整理します。

全軌道角運動量:L

 全軌道角運動量は1電子の軌道角運動量 lを組み合わせたものといえます。その組み合わせ方は、lをベクトルとして、そのベクトルの和によって考えられます。

 

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 上の図ではlの実線の矢印で表されているベクトル2つの和を、破線の矢印で表しています。このベクトルの和の大きさは、それぞれ下に示す対応した記号で表します。

  L:0, 1, 2, 3, 4, 5,・・・

記号:S, P, D, F, G, H,・・・

 

スピン角運動量:S

スピン角運動量は、それぞれのスピンの合計で考えます。まず1電子の場合は、スピン量子数は+\frac{1}{2}-\frac{1}{2}です。

ここでは、それぞれのスピンを↑と↓の記号で区別します。

2電子の場合は↑↑、↑↓の2つの組み合わせが考えられます。

↑↑のスピンの和はS=+\frac{1}{2}+(+\frac{1}{2})=1

↑↓のスピンの和はS=+\frac{1}{2}+(-\frac{1}{2})=0

3電子の場合は全て上向きのスピンのとき↑↑↑と、2つ上向きのスピンのとき↑↑↓の2通りを例にあげます。

↑↑↑のスピンの和はS=+\frac{1}{2}+(+\frac{1}{2})+(+\frac{1}{2})=\frac{3}{2}

↑↑↓のスピンの和はS=+\frac{1}{2}+(+\frac{1}{2})+(-\frac{1}{2})=\frac{1}{2}

ここで2S+1をスピン多重度といいます。

S=0のときはスピン多重度2×0+1=1となり一重項と呼びます。S=1のときはスピン多重度2×1+1=3となり三重項と呼びます。

スピン軌道相互作用

これは全軌道角運動量とスピン角運動量の相互作用を考えたものです。

一般的に^{2S+1}L_Jと表します。

例えば、L=2S=1の場合は、^{3}D_1^{3}D_2^{3}D_3という表し方があります。この一つ一つの組み合わせを電子項と呼びます。

フントの規則

 エネルギー準位図において、軌道を安定な軌道から並べる際の重要な規則がフントの規則(Hundの規則)です。一般的なエネルギー準位図では、安定な軌道が下に描かれます。

1.スピン多重度の最も大きな項は安定。

例:3Dより5Dが安定

2.スピン多重度が最大の項が複数あるときは、全軌道角運動量Lが大きい項が安定。

例:3Pより3Fが安定

3.スピン多重度と全軌道角運動量が同じ場合は、

3-1.準殻の電子が半分以下の場合、Jが小さい項が安定。

例:4F2より4F1が安定

3-2.準殻の電子が半分以上の場合、Jが大きい項が安定。

例:7F5より7F6が安定

2つのエネルギーの幅について

1.最もJの大きい成分のエネルギーは分裂する前の項のエネルギーと比較して、LSλだけ高くなります。ここでλはスピン-軌道結合定数です。

2.2つの成分のエネルギー分裂の大きさは、ランデの間隔則(Landeの間隔則)に従い、ΔE=J_iλとなります。ここで、J_iは高いエネルギーをもつ成分のJをさします。

例えばp2のエネルギー準位図は次のように描けます。

ここでp2の電子項は3P、1S、1Dとなります。

LSλ=(1)(1)λ=1λ

ΔE(^3P_2-^3P_1)=J_iλ=2λ

ΔE(^3P_1-^3P_0)=J_iλ=1λ

と計算できるので、以上に注意すると、エネルギー準位図は下のように描けます

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