化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

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軌道と主量子数・全角運動量量子数(方位量子数)・磁気量子数・スピン量子数の意味

軌道とは

ここでいう軌道とは電子の軌道です。各軌道は軌道角運動量と対応しています。

各軌道の意味についてまとめていきます。

軌道角運動量=0 s軌道 (sはsharpに由来)

軌道角運動量=1 p軌道 (pはprincipalに由来)

軌道角運動量=2 d軌道 (dはdiffuseに由来)

軌道角運動量=3 f軌道 (fはfundamentalに由来)

よく目にする軌道はf軌道くらいまでですが、この後はアルファベット順にg、h、i・・・と続くと決められています。

また、軌道の形にも特徴があります。s軌道は球ですが、p軌道は球が二つ繋がった雪だるまのような八の字ような形、d軌道は八の字が二つ組み合わさったような形をしています。

量子数とは

量子数とは、量子力学で系の状態を指定する数、もしくはその組のことです。量子力学では、物理量が連続的な値をとらずに離散的な(とびとびの)値をとることが多く、整数や半整数 (整数に1/2を加えた値) を用いて量子数を表すことが多いです。

特に量子力学では、原子中の電子の状態を表すために量子数を使います。この場合には、それぞれ単語とそれに対応するアルファベットがあります。

主量子数:n=1、2、3、4、・・・

全角運動量量子数:l=0(s)、1(p)、2(d)、3(f)、・・・

磁気量子数:ml=l、l-1、l-2、・・・、0、・・・、-(l-2)、-(l-1)、-l

スピン量子数:ms=1/2、-1/2

主量子数について

主量子数は、原子軌道の動径部分を特性づける量子数です。主量子数は、電子のエネルギーを特徴づける量子数ともいえます。また、主量子数nは1以上の整数で表され、その値は軌道の節面数+1となります。

またn = 1、2、3 はそれぞれK殻、L殻、M殻に対応します。

つまり、電子がs軌道にいると考えたとき、主量子数:nが1なら電子は1s軌道に、nが2なら電子は2s軌道にあることを意味します。つまり、主量子数:nは軌道の大きさを表しているともいえます。

全角運動量量子数 (方位量子数) について

全角運動量量子数は、原子軌道の軌道角運動量の大きさを示す量子数です。これは方位量子数といわれることもあります。全角運動量量子数は、主量子数よりも詳細なエネルギー準位や軌道の形状を示しているといえます。

全角運動量量子数:lは0または正の整数で表されます。また、主量子数nに対して、全角運動量量子数の上限はn-1となります。

全角運動量量子数:l=0(s)、1(p)、2(d)の()内は、それぞれ対応する軌道を示しており、上で示した、s軌道、p軌道などのことです。

l=0ならば電子がs軌道にあることを表し、l=1ならば電子がp軌道にあることを表します。つまり電子のいる軌道の形を表しているといえます。

磁気量子数について

磁気量子数ですが、これは原子内における電子の軌道角運動量のz軸成分を特徴づける量子数です。

磁気量子数は、1つの全角運動量量子数lに対して、ml=l、l-1、l-2、・・・、0、・・・、-(l-2)、-(l-1)、-lというように2l+1通りの値をとります。

磁気量子数は全角運動量量子数からこのように数字を引いて計算しています。全角運動量量子数が決まれば、磁気量子数の数も決まるということです。これは、方位を表しているといえます。

球対称の場では、2l+1通りの状態は縮退しているが、磁場がかかると縮退が解け、異なるエネルギーに分裂するため、磁気量子数といわれています。

スピン量子数について

スピン量子数は素粒子の固有の角運動量 (スピン角運動量) の大きさを特徴づける量子数です。スピンの大きさを表す量子数ともいえます。

1個の電子の場合、スピン量子数は半整数の値をとって、その値はシンプルに二つしかなく、1/2か-1/2のどちらかの値をとります。

また、原子核や電子のスピンに対応しており、化学では電子の上向きのスピンや、下向きのスピンという言葉をよく目にすることがあると思いますが、まさにそれを表しています。

素粒子のスピン量子数は、整数か半整数の値をとり、半整数の値をとる素粒子はフェルミ粒子、整数の値をとる素粒子はボース粒子といいます。

電子1つの量子数での表し方

電子1つは量子数を用いて、(n,l,ml)で表すことができます。

例えば

1s軌道の電子1つは(n,l,ml)=(1,0,0)

2s軌道の電子1つは(n,l,ml)=(2,0,0)

2p軌道の電子1つはそれぞれ3つの場合があり(n,l,ml)=(2,1,1);(2,1,0);(2,1,-1)

3d軌道の電子1つはそれぞれ5つの場合があり(n,l,ml)=(3,2,2);(3,2,1);(3,2,0);(3,2,-1);(3,2,-2)

と表記することができます。

では、2電子以上の場合は?というと全軌道角運動量、全スピン角運動量、そしてその相互作用が重要になってきます。

2電子以上についてはこちらの記事にまとめています。