"化学と工業"という冊子の中から、Overview "褐変現象で注目される食品から生体まで"についての紹介です。
生体内でのメイラード反応とは?
メイラード反応について記事をまとめましたが、その続きで、ここでは特に生体内での話にフォーカスしています。
食品とは異なり,生体内では好ましくない反応と考えられており,医学分野ではメイラード反応を糖化反応,反応の最終産物(メラノイジン)のことをAGEs(Advanced Gycation End Products)と呼ぶことが多い。引用元:化学と工業 vol.71-5 May 2018
ここではメイラード反応と書きますが、メイラード反応はタンパク質やアミノ酸と糖が反応すれば起きるため、大量のタンパク質やアミノ酸と糖が存在する生体内で反応が起こるということは、当然だと思います。ここで注目されているのは糖化ヘモグロビンHbA1cです。糖化ヘモグロビンHbA1cは糖尿病の診断や治療の際の検査でも注目される物質で、赤血球ヘモグロビンがグルコースとメイラード反応を起こして、AGEsが生成する前の中間生成物だそうです。
1962年に糖尿病の患者はHbA1cが多いことが報告されています。その後、糖化ヘモグロビンについて、生体内でメイラード反応が起こることも報告されています。
糖尿病では様々なAGEsが体内で生じ,褐色斑の形成や白内障の発症,血管組織の劣化などの合併症の進展にAGEsが関与することが明らかになってきた。
引用元:化学と工業 vol.71-5 May 2018
メイラード反応によって生成したAGEsが体内で老化に関与している可能性が高いとなると、メイラード反応が生体内では好ましくない反応と考えられる理由が分かりますね。骨や皮膚にAGEsが蓄積することによる褐変現象も大きな問題でしょうが、それ以上に、眼の水晶体に蓄積することにより、白内障の原因となったり、血管の動脈硬化の原因でもあるとなると、その影響は計り知れないものがあると思います。ただ、この生成して蓄積したAGEsを減らすということは難しいようで、今後の科学の発展に期待したいという感じみたいです。一方で、希望がある話もあります。
AGEsの生成を加速するのはメイラード反応の中間産物である3-デオキシグルコソンや糖の代謝中間体であるグリセルアルデヒドや炎症反応からできるメチルグリオキサールなどのアルデヒドだとわかったのです
引用元:化学と工業 vol.71-5 May 2018
3-デオキシグルコソンやグリセルアルデヒド、メチルグリオキサールなどのアルデヒドがAGEsの生成を加速するということですね。そして、これらのアルデヒドを代謝する、つまり無害なものに変えてしまう酵素について研究が進められています。このOverviewでは、同志社大学の米井教授が(グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素)GAPDHに注目している話が報告されています。
GAPDHの解糖系の酵素だが,近年,細胞のストレスセンサーとして,損傷した細胞をアポトーシスへ誘導していることが明らかになってきた。GAPDHは,体内の糖化にも機能している可能性がある。
引用元:化学と工業 vol.71-5 May 2018
つまりGAPDHが体内でアルデヒドを減らす役割をもっているかもしれないということですね。今回の内容はAGEsの生成に注目され、そこを明らかにすることができれば、こういった人間の生体が本来もつ機能をより働くようにしたり、もしくは人工的に補助ができれば、白内障や動脈硬化を防ぐことができるかもしれないということでしょう。この研究でも充分夢がある話ですが、やはりゆくゆくは生体内のメイラード反応で産まれて蓄積したAGEsそのものを減らすことができれば、と思ってしまいます。
前回の内容では、メイラード反応が風味を向上させているような例もありましたが、生体内となると好ましくない反応でもあるようで、メイラード反応が様々な箇所で起こる反応であるということを実感します。
Overviewの全文が読みたい人は"化学と工業"の5月号をご覧ください。たぶん、大学の図書館には置いてあるのではないでしょうか。また、化学系の大学院生なら持っている人もいると思います。別に日本化学会の回し者ではないですし、宣伝したところで1円もメリット無いんですけどね。