化学徒の備忘録

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固い酸・塩基、やわらかい酸・塩基【HSAB則】の解説

無機化学でたまに耳にするHSAB則、その説明をしていきます。

HSABとは、hard and soft acids and basesの頭文字をとっています。シンプルに説明しますと酸と塩基を次の4種類hard acid、hard base、 soft acid、 soft base、日本語に訳すと固い酸、固い塩基、やわらかい酸、やわらかい塩基に分類して考えましょうということです。

このHSABの分類がどのように反応に寄与するかを考えたものがHSAB則です。

HSAB則では、

・固い酸と固い塩基が結合しようとする。

・やわらかい酸とやわらかい塩基が結合しようとする。

と考えます。

 

HSAB則の分類は物理無機化学者のR. G. Pearsonによって1963年に提唱されたものだそうです。では、その前はこういう考え方は無かったのかというと、そういうわけではなくS. Ahrland、 J. Chatt、 N. R. Daviesによってクラスa、クラスbと分類されていたそうです。

では、それぞれの固い酸、固い塩基、やわらかい酸、やわらかい塩基の分類を金属イオン、配位子で紹介します。

固い酸(主な金属イオン種)

特徴は低い電気陰性度と高い電荷密度です。

 \rm{H^+、Li^+、Na^+、K^+、Be^{2+}、Mg^{2+}、Ca^{2+}、Cr^{2+}、Cr^{3+}、Al^{3+}}

やわらかい酸(主な金属イオン種)

特徴は高い電気陰性度と低い電荷密度です。そして、容易に分極し、共有結合を形成しようとする傾向があります。

 \rm{Cu^+、Au^+、Ag^+、Tl^+、Hg^+、Pd^{2+}、Cd^{2+}、Pt^{2+}、Hg^{2+}}

中間(境界上)の酸(主な金属イオン種)

特徴は中間的な電荷密度です。

 \rm{Fe^{2+}、Co^{2+}、Ni^{2+}、Cu^{2+}、Zn^{2+}、Pb^{2+}}

固い塩基(主な配位子種)

フッ素や酸素と結合した化学種が多いです。

 \rm{F^{-}、OH^{-}、H_2O、NH_3、{CO_3}^{2-}、NO_3^{-}、O^{2-}、{SO_4}^{2-}、{PO_4}^{3-}、{ClO_4}^{-}}

やわらかい塩基(主な配位子種)

炭素や硫黄、リン、ヨウ素を含む電気陰性度の比較的低い非金属種が多いです。他に、サイズが大きく、電荷密度が低いことも特徴です。

 \rm{H^{-}、CN^{-}、CO、I^{-}、SCN^{-}}

HSAB則の応用

HSAB則を応用すると

 \rm{HgF_2 + BeI_2 → BeF_2 + HgI_2}

という反応が起こるかどうかを予測できます。

それぞれの化学種は次のように分類できます。

Hg2+ やわらかい酸

F- 硬い塩基

Be2+ 硬い酸

I- やわらかい塩基

よって、硬い酸は硬い塩基と、やわらかい酸はやわらかい塩基と結合しようとするのでこの反応は進むと予測できます。

 HSAB則の分類を利用すると比較的簡単に反応が予測できる気がしますが、注意しないといけないことは、他の要素も反応に影響するので、HSAB則だけで予測できないこともあるということを忘れないことだと思います。

参考文献:シュライバー・アトキンス 無機化学(上) 第4版1