化学徒の備忘録

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理系人材の就職活動時期は見直すのは厳しいのではという話

"化学と工業"という冊子の中から、東京大学の教授の菅 裕明先生の著した論説"理系人材の就職活動時期は見直せ!"についての感想です。

十数年前,いや,それ以前からも日本の大学の研究力を支えてきたのは,教員の頭脳だけでなく,何よりも研究を推進する「学生たち」であった。

引用元:化学と工業 vol.71-5 May 2018 

 これは全くもって、その通りだと思います。十数年前の大学の研究室の状態は知りませんが、少なくとも今の大学の研究室の実態は研究活動を推進しているのは学生の場合が多いと思います。もちろん、研究室によっては博士研究員、いわゆるポスドクや技術職員のようなスタッフがいると思います。

でも、やっぱり研究をしている学生の力は無視できない大きさだと思います。正直、研究室の教授や准教授といったその研究室の主宰者:PI(Principal Investigator)が実験を行って、研究を進めている姿なんて、ほぼ見ることがない場合がほとんどなのではないでしょうか。実際、学会での教授や准教授の講演を聞くと「この実験は当時博士課程の〇〇くんがやってくれたものですが、」なんて言葉をよく耳にします。もちろん、大学では主宰者が研究の指導はもちろんのこと、予算を獲得し、さらに講義や試験等も担当しなければいけない大変忙しい状況にあると思うので、この現状は必然ですらあると思います。

そして、日本の研究力が諸外国と比較して相対的に低下しているのということは、大学の日本の研究を支えている学生の環境にも要因があるという意見も真っ当なものだと思いますし、その一因に就職活動があるのも納得ですね。

日本の理系の学生って、学部で卒業する人もいますが、修士過程を終えて、就職する人が多いと思います。特に入学試験の偏差値の高い大学はその傾向があるように思います。著者もこの修士過程で就職する場合を想定して、大胆な提案をしています。

 大学は,修士論文の提出と評価を修士課程2年生の12月で終わらせ,修士課程の残る3ヶ月は完全にフリーにする学務スケジュールに変更する。学生はこのフリーになった3ヶ月のみを就職活動にあてる。企業は,この1~3月の3ヶ月で就職面接を行い,採用を決定する。

引用元:化学と工業 vol.71-5 May 2018 

 この提案、確かに良さそうではあるんですよね。修士論文が完成してから、就職活動を行えば、学生の研究力がより判断できる状態で企業は面接を行うことができるという意見は筋が通っているとは思いますし、研究室からすると、就職活動で研究が中断されることも無く、期間も短くなるという意見ですね。

でも、この提案は学生のことをかなり無視していると思います。今の就職活動のスケジュールは修士1年の3月からはじまり、6月頃には最終面接を迎えて内定をもらうというものが一般的だと思います。でも、この6月で内定をもらえない学生ってやっぱりいますよね。そして、そういう学生が8月とか9月に内定を貰えるってこともあるんですよ。それに、業界研究とか企業研究を早い人は修士1年の5月頃にははじめて、夏にはインターンシップに行く人も多いと思います。

まず、著者の提案では、インターンシップを1月~3月に行くということが非常に厳しいと思いますし、その前にインターンシップに行くスケジュールなら、結局、研究活動って中断するので、現在の就職活動の実態が反映されてないところがあると思います。そして、インターンシップってなんだかんだで、企業と学生のミスマッチを減らしている側面はあると思います。

そして、12月に修士論文をまとめたり、その発表を行うとなると、12月やその前の11月に、業界研究や企業研究をやるか、終わってからやるかとなります。結局、修士論文と就活を並行してやるか、1月からやるかを迫られます。

さらに、選考の期間が短いと企業と学生のミスマッチも多くなって、結果的に就職した後に離職や転職というケースが増えると思います。こうなると、企業も学生も損をする結果ですね。

つまり、この提案は学生と企業のミスマッチが増える可能性が高い上に、もし就職活動に失敗した場合は救済がされないんじゃないかって話です。いや、その提案はムリがあるだと!って思います。一応、著者も就職活動の失敗は懸念していて、推薦就職を復活させればいいと提案していますが、だったら今の就職スケジュールでほとんどの就職活動を済ませることができる推薦就職を復活させたって変わらないですよね。

筆者はこの変革は,大学も企業も多くのメリットを見いだせる変革だと思う。

引用元:化学と工業 vol.71-5 May 2018 

この著者の意見は分かるんですけど、やっぱり学生はほとんどメリットを見いだせないと著者も感じでいるのではって思ってしまいます。教授は学生を奴隷のように捉えているんじゃないかなんて話がある研究室も世の中にはありますが、やっぱり学生っていろいろな場面で弱者なんだと思います。こういう変革は、ぜひ弱者の視点で考えてほしいと思いますし、そういう人になれればと思います。

では、最後に私からも就活スケジュールを提案してみます。今と同じように修士1年の3月から企業へのエントリーが開始。その後、4月には内定解禁。つまり、早い人は4月には内定がもらえて、後は研究活動に集中できる。実際に今も、4月や5月に内々定を出している企業は多いと思うのですよ。そして、5月以降は週2日(例えば月曜、火曜)以外の採用活動(面接やテスト等)は禁止というのはどうでしょう。理系の大学院生の本分は研究活動なので、そこに集中できるようにするというわけです。ただ3月、4月で失敗した人も救われるチャンスは残りますよね。

論説の全文が読みたい人は"化学と工業"の5月号をご覧ください。たぶん、大学の図書館には置いてあるのではないでしょうか。また、化学系の大学院生なら持っている人もいると思います。別に日本化学会の回し者ではないですし、宣伝したところで1円もメリット無いんですけどね。