化学徒の備忘録(かがろく)|化学系ブログ

理系の筆者が化学系の用語や論文、動画、ノウハウなどを紹介する化学ブログ

固体物理化学

フォノンと格子振動・フォノンのエネルギー

フォノンと格子振動 フォノンとは、固体を構成する原子の振動である格子振動を、エネルギーをもつ粒子と考えたものである。つまり、フォノンは格子振動の準粒子である。また格子振動を量子化したエネルギー量子がフォノンであると説明されることもある。 フ…

準粒子:量子化された振動や波動を粒子とみなす

準粒子とは 準粒子とは、相互作用をもつ多粒子の集団による運動の中で、振動や波動が量子化され、粒子のように振る舞うため、粒子のように扱うことができるもののことである。 数学的には多粒子系の集団による運動は、空間的に広まった場として考えることが…

格子比熱と格子比熱の式

格子比熱 格子比熱とは、固体の比熱のうち格子振動の寄与する部分のことである。 固体の比熱を考える場合、固体の内部エネルギーが温度に対してどのように変化するかを考える。この固体の内部エネルギーは格子振動のエネルギーと電子系のエネルギーに分けら…

ハイエントロピー合金とその特徴

ハイエントロピー合金とは ハイエントロピー合金もしくは高エントロピー合金 (High entropy alloy, HEA) とは、合金を構成する元素が5成分以上であり、その5成分以上の多成分がほぼ等原子組成比で、そして単相固溶体を形成する合金である。従来の合金の多く…

ヴェガード則:合金の組成と格子定数の経験則

ヴェガード則とは 合金には置換型固溶体と侵入型固溶体が存在する。このうち置換型固溶体では、合金の組成と格子定数の関係についてヴェガード則 (ヴェガードの法則、ヴェガードの規則、ベガード則、ヴェガルド則、Vegard's law) といわれる経験則が存在する…

励起子(ワニエ型励起子・フレンケル型励起子)とは

励起子とは 励起子 (exciton) とは、伝導帯の電子と価電子帯の正孔がクーロン相互作用によって束縛された準粒子である。また、励起子は、量子力学的にはボース粒子として取り扱われている。 励起子は半導体などの物質の光物性を理解するうえで重要となり、反…

ミラー指数・面指数(面を示すミラー指数・4つの整数のミラー指数)と方位指数(方位を示すミラー指数)

ミラー指数と結晶面 面を示すミラー指数:面指数 4つの整数の組のミラー指数(三方晶・六方晶) 方位を示すミラー指数:方位指数 ミラー指数と括弧 ミラー指数と結晶面 結晶では、結晶面によって原子の配置が異なる。そのため、結晶面によってポテンシャルエネ…

結合エネルギー・凝集エネルギー・格子エネルギーとは

結合エネルギー・凝集エネルギーとは 原子やイオンは凝集せずにちりぢりで存在している状態よりも、互いに近くに集まった状態でいる方がエネルギー的に安定である。そのため、原子同士が結合して、分子や結晶を形成している。 この原子やイオンがちりぢりで…

ペロブスカイト型構造・有機無機ハイブリッドペロブスカイトの解説

ペロブスカイト型構造 ペロブスカイト型構造は、ABX3(A = Ca, Ba, Sr, Pbなど、B = Ti, Zr, Sn, Hfなど、X = Oなど)で表される立方晶系の結晶構造である。 灰チタン石 CaTiO3 (ペロブスカイト, perovskite)にちなんで命名された結晶構造である。 特に酸化物…

中性子回折・中性子回折とX線回折の違いの解説

中性子回折 結晶構造を決定するような結晶学的な研究において中性子回折を利用する場合がある。 ド・ブロイの関係は、ビーム状に運動する粒子が波の性質をもつことを示しており、次の式で表される。 ここで、は物質波の波長、は粒子の運動量であり、質量×速…

単純立方格子 (sc) の逆格子点の導出

単純立方格子 (sc) の基本並進ベクトル 方向の大きさが1の単位ベクトルをとする。 単純立方格子の格子の1辺の長さをとすると、基本並進ベクトルは次のように表される。 よって、外積を計算すると、次のようになる。 また、体積を計算すると、次のようになる…

面心立方格子 (fcc) の逆格子点の導出

面心立方格子 (fcc) の基本並進ベクトル 方向の大きさが1の単位ベクトルをとする。 面心立方格子の格子の1辺の長さをとすると、基本並進ベクトルは次のように表される。 よって、外積を計算すると、次のようになる。 また、体積を計算すると、次のようになる…

フェルミ準位の解説

フェルミ準位とは フェルミ準位とは、絶対零度において、有限個の電子をエネルギーの低い量子状態から順番に詰めていき、電子が満ちる最大エネルギー値のエネルギー準位のことである。 また、熱平衡の状態にある物質中のエネルギー準位を考えたときに、電子…

結晶・単結晶・多結晶・微結晶についての解説

単結晶と多結晶について解説する。そのまえに、結晶とはどういったものかを確認しよう。 結晶とは 固体のなかでも、その固体の内部を構成している原子や分子、イオンの配列が三次元の周期性をもつものを結晶 (crystal)という。 逆に固体の内部を構成している…

塩化セシウム型構造についての解説

塩化セシウム型構造とは 塩化セシウム (CsCl) の構造の単位格子は、セシウムイオン (Cs+ ) が立方体の中心に位置し、頂点にある8個の塩化物イオン (Cl- ) に囲まれている構造である。これは逆に、頂点にセシウムイオンを配置し、中心に塩化物イオンを配置す…

ゾルゲル法の解説

ゾルゲル法とは コロイドなどの微粒子が溶液中に分散したゾル状態から、流動性のなくなるゲル状態を経て、固体物質を得る合成方法をゾルゲル法 (ゾル-ゲル法、sol-gel method)という。セラミックスやガラス、金属酸化物などの合成に用いられる。 一般的に粒…

マイクロ波合成と伝導加熱・誘電加熱について

マイクロ波合成とは 混合酸化物などの固体材料をつくる際にマイクロ波 (マイクロウェーブ) が使われるようになった。マイクロ波とは、波長の範囲が約1 mから1 mm、周波数の範囲が300 MHz から300 GHzの電波をさす。 マイクロ波合成では、主に反応速度を速く…

消滅則について解説

消滅則とは 結晶によるX線の回折では、結晶面によるX線の反射はブラッグの条件が満たされたときに起こる。また、その強度は結晶構造因子によって決まる。 しかし、空間格子の種類やらせん軸、映進面の有無などによって結晶構造因子となり、反射が系統的に出…

合金と置換型固溶体・侵入型固溶体・金属間化合物について

合金について 合金(alloy)とは、異なる金属元素が混じり合った物質である。溶けた金属を混ぜ合わせてから冷却してできる固体であり、金属の性質を示す。一般的に合金は電気陰性度が同程度である電気的に陽性の2種類の金属から生成することが多い。 合金は一…

ロンドン方程式の古典電磁気学からの導出

ロンドン方程式の古典電磁気学からの導出 ロンドン方程式を古典電磁気学から導出する。 電気抵抗をもつ普通の導体では、電場を印加した場合の電流密度は電気抵抗をとすると次のようになる。 超伝導体の場合、電気抵抗は0であるため、電気素量を、電子の質量…

超伝導体のマイスナー効果とゼロ磁場冷却・磁場中冷却

マイスナー効果について 1933年にマイスナー(Meissner)とオクセンフェルト(Ochsenfeld)は転移温度以下の磁場中ある超伝導体周辺の磁束分布を測定し、超伝導体内の磁束密度が常に0であることを発見した。超伝導体では、外部磁場が存在している環境でも、磁束…

超伝導体の性質と臨界磁場・Josephson効果・相転移について

超伝導体と臨界磁場について 超伝導状態が実現するためには、温度が転移温度以下である必要があるが、外部磁場にも条件がある。 超伝導体に外部磁場をかける場合を考える。 超伝導体にかける外部磁場を強くしていくと、ある臨界値以上では超伝導状態が破壊さ…

フェルミディラック分布関数(Fermi-Dirac分布関数)の導出

フェルミディラック分布関数の導出 フェルミディラック分布関数 (Fermi-Dirac分布関数) を導出する。 とり得るエネルギーはであるとする。 各エネルギー準位に個の縮退した状態があり、そこに個の粒子が配置されるとする。ただし、とする。 そこでエネルギー…

金属ナノ粒子と表面プラズモンについて

金属と表面プラズモンについて 金属粒子に衝突した光は電子の光励起を引き起こす。生じる光励起の大部分は、金属の価電子帯の電子の集団的振動である。この金属表面の価電子が集団的に振動励起された状態を表面プラズモン(surface plasmon)という。このよう…

ブロッホの定理と証明

// ブロッホの定理 周期的ポテンシャルに対するシュレディンガー方程式の解は次の特別の形をもつことをブロッホの定理という。 (1) ここでは結晶格子の周期をもち、という関係を満たす。は格子の並進ベクトルを表す。 (1)の形の1電子波動関数はブロッホ関数…